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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第10部『因縁の兄と弟』編
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第18話 生転の旅路

 散々(さんざん)考慮こうりょを重ねた上でホーリィーンが詠唱を始めたのは何と『永遠の旅路ストラーダ・インフィニータ』であった。

 戦の女神(エディウス)の正式な司祭ですらない彼女が、神に意識を持って行かれる危険性をはらむこの奇跡を扱うこと自体が異常事態だ。


 しかもこの術、一体誰を対象としているのであろう。ジェリドが相談した元を辿たとれば「あのフェネクス化したセインの再生能力を測って欲しい」であった。

 寄って自然に考えれば永遠の旅路ストラーダ・インフィニータをかける相手はセインが妥当だとうであろう。


 けれど無限に限りなく等しい再生を出来る相手に細胞分裂の超活性化(細胞の死滅を促す方法)が果たして通用するのであろうか?



「………これまでの軌跡きせき終焉しゅうえんを告げ、()()()()()()()()()()

「………ンンッ?」


 此処までの祈りの言葉を聞いたドゥーウェンが怪訝けげんな顔をする。途中から詠唱の内容が変化した気がしてならない。

 余りにも急速に肉体を失った魂が行き場を見失い、永久を彷徨さまようから永遠の旅路であった筈だ。

 なのに新たなる旅路とは一体? 自分の記憶違いであったのだろうか……。彼はエドル奪還だっかんの戦場には、いなかったのでそう感じるのも止むを得ない。


 しかしこの後、ホーリィーンが決定的な違いをまざまざと見せつけることになる。あろうことか彼女は、宙に描いた印の光を地面に寝かせた愛娘リイナに載せたのだ。


「な、何をして……!」

亮一ドゥーウェンよ、あれで良いのだ」


 その途轍とてつもない行動を見て、止めに入ろうとするドゥーウェンの肩をサイガンがガシリッとつかんでそれを制する。


「………生命への階段を登れ! さあ()()()()未開の道へ! 『生転の旅路レイジオネ・インフィニータ』!」


 ホーリィーンの女神に捧げる詠唱()が終わった。やはり途中から永遠の旅路ストラーダ・インフィニータでなくなっていた。

 けれどリイナに降り掛かる光は、全く同一のものに見えた。先ずリイナの腹に植え付けられたフェネクスの細胞らしき黒ずみが消失する。

 それは良い、問題は此処からである。これが永遠の旅路ストラーダ・インフィニータと同質の奇跡だとすれば、リイナ当人すら細胞の欠片も残さず消えてゆくのだ。


「うっ……うぅ……ウワァァァッ!!」


 苦しみもだえる叫びを上げつつ、リイナが大いに暴れ始める。おかに無理矢理()げられた魚の様にもんどりを打ち続ける。

 セインの黒ずみこそ消えたが、それをはるかに凌駕りょうがする黒色の侵攻が止まらない。

 このままでは火が燃え移った枯れ葉のように炭すら残さず消えてしまうのではなかろうか。


こらえろっ、リイナァ!」

「リイナさん、貴女が真なる女神を継し者であるなら、この試練すら超越ちょうえつ出来るっ!」


 父として娘のこんな姿を見るのは忍びないが、決して目をそむけはしない。まるで自分の胸が身体が燃えているかの如く、血がにじむ程に鷲掴(わしづか)みする。

 ベランドナの応援する声に熱が帯びる、この少女が試練に打ち勝つことは、まるで自身が成し得なかったことを果たしてくれると錯覚する。


 やがてリイナの足掻あがききの声が治まった、同時に微塵みじんも動けなくなる。一応消し炭は残った、だがリイナの生は今此処についえたかのように思える絵面えづらだ。


 ………もう全てがしまい……そう思えた次の瞬間、白い炎と青白い炎が空から降って一つとなりてリイナに点火した。

 葬送………火葬に思えたその火を浴びせ掛けたのは、まぎれもなくローダである。


「不死鳥は死してなおも火中から蘇えり、その翼を羽ばたかせる!」


 ローダはそれだけを告げると、兄ルイスと再び壮絶な兄弟喧嘩にかえっていった。


 完全に黒い死体と化したと思われたリイナが、さらにさらに赤みを増してその中身すらもたぎらせる。

 どうしようないお人好しのローダ、美麗びれいで何処までも強いあこがれのルシアと共に眺めた焚火に潜む炭火最後の静かなる赤みとどこか似ていた。


 もう消えかけていたかに見えた炭火に風を送ると、自分はまだ終わっていないとばかりに強い炎を再び生み出す。

 小さなリイナがこれまで以上の炎の柱を上げて大いに燃え盛り、やがてそれは火の鳥を成した。


「キッシャアァァァァッッ!!」


 全身を燃やしてリイナが再び地面を踏みしめ、不死鳥特有の鳴き声をまるで産声うぶごえのように上げた。

 ホーリィンの起こした奇跡、生転の旅路レイジオネ・インフィニータとは実の処、永遠の旅路ストラーダ・インフィニータと効力は余り変わりがない。


 先ずはセインの埋めた黒い細胞を消し去ること、だがリイナの細胞すらも巻き込むことを意味している。

 残りは娘を想うただの祈りに過ぎない。詠唱にそれを織り込んだだけであり、後は本物の不死鳥化による再生能力が偽物におとる訳がないと信じ抜いた。


「リイナ、良かった………わ、私、奇跡を、奇跡を起こせた………」

「リイナッ! 信じていたよ、私の妹っ!」

「やはり私の目に狂いはなかった、アルベェラータ……女神の系譜けいふ

「ホゥ………」


 小さな勇者の帰還に皆の歓喜が沸き起る。その結果にへたり込むホーリィーン、戦いの力を否定し続けた母の頑固な想いが、遂に結実を生んだ。

 ルシアの勘に狂いはなかった、ただ愚直にリイナの力を信じただけだ。

 ベランドナが150年前に馳せた想い、母娘の血統は本物であった。父の方は果たしてどうか。

 一人ルイスがその姿に少しだけ驚いた顔をして感心する。


「ハァァァッ!!」


 そんな周囲の空気を感じられないのか、地面が揺れるのではないかと思える程に蹴って跳び上がる。

 狙う相手は同じ不死の鳥を抱くセイン、偽物のジオーネの顔に流れる戦慄せんりつの汗。なれどやられるつもりは毛頭ない。

 彼女から発せられた3つの小さな火種が大きさを増し、人の形を成してゆく。


「アレは、まさかジオの『操舵ステア』に『模倣フェイク』っ!? しかもリイナの想い人に化けるなんてっ!」


 セインの前に立ちはだかっていた筈のルシアが驚きの声を上げる。セイン自身はジオーネの秘技『不可視化インビジブル』を真似まねて、ルシアの前から姿を消した。

 加えてルシアの後方、リイナとの距離がより近い位置に再び出現する。今のセインにとって倒すべきはリイナの方、そう誇示こじしてるかのように。


 小さな火種は、ジェリド、ホーリィーン、そしてローダに化けていた。もしセインがラファンの首都ディオルに住むリイナの幼馴染おさななじみを知っていたら間違いなくローダではなく、ロイド(そちら)を出したことだろう。


「おっと待ったあぁぁっ! 露払い(つゆはら)位させて貰うぜッ!」

「新たなる不死鳥フェニックス、進撃の邪魔はさせないッ!」


 偽ジェリドの前に青いしゃちことランチア、偽ホーリィンには赤い鯱プリドールの二人組ツーマンセルが、待ちびた出番とばかりに突貫とっかんする。


 ただの黒い火種でした偽物でこそあるが、あの凄まじき再生能力を秘めた細胞の欠片かけらである。

 油断は禁物………かに思われたが巨大な青シャチと赤シャチが獰猛どうもうな口を開いて相手の全てを咀嚼そしゃくした。


「ジェリド……おっさんはなあ、この俺とタメ張って戦い抜いたズバ抜けた戦士ッ! それに化けるなんざァ許せねえんだよッ!」

「ホーリィーン・アルベェラータ、あの勇気の塊(ジェリド)が選んだ女を侮辱ぶじょくするなど万死ばんしに値するっ!」


 ランチアはラファン砦奪還(だっかん)おり、共に生死の境界線をはしったことを告げている。

 プリドールが酷く軽蔑けいべつした眼差まなざしを鬼女(偽物)に向ける。巨人はおろかドラゴンにすら折れずに立ち向かった勇敢ゆうかんなる者。

 それに少しだけ()()ところがある男だ、それの妻に化けるなど決して許せる訳がない。


 しくも自分の背後に現れた夫の偽物、これを裏拳一撃でほふる女は、天使というより豪傑ごうけつのソレであった。


「よりにもよってアタシの男へ化けるなんて………。もし、今のリイナがいなかったらアンタ、永久に殴り続けた(サンドバック)よ」


 ルシアの目は、堕天使ルシファーから悪魔王サタン転生(変貌)を遂げていた

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