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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第10部『因縁の兄と弟』編
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第12話 ぼくがおにいちゃん?

 色々な争いと人物達に焦点を切り換えて申し訳ないが、暗黒神の能力一時停止という邪魔が入り、中断を余儀よぎなくされたローダとルイスの剣によるやり取りも再開している。


 とにかくローダがどのような攻撃を仕掛けても、ルイスの紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)による霧散化むさんかによって全て無意味とされてしまう。

 蜃気楼しんきろうとは実に良く言ったものだ。諦めずに竜之牙ザナデルドラを振るうローダの実力とて決して低くなく、エドナ村の時とは比べようもない。


 けれども剣士がその得物えものを合わせられないというのは実に致命的ちめいてきだ。もっと技巧ぎこうらす必要がある。


「グッ!?」

「へッ! 狙い撃ってやったぜッ! 長い銃身(ロングバレル)は苦手だけどなッ!」


 再び蜃気楼のように姿を消そうしたところに一閃いっせんの輝きが走りルイスの左肩をつらぬいた。

 二丁拳銃のレイが少々苦手な銃身の長い光線銃で、ルイスが消える瞬間をしたたかに待っていたのだ。

 それでもルイスの霧散化に変わりはない、そのまま消えてゆこうとするが、流れ出る血液の痕跡こんせきまでは消し切れない。


「お次だっ! 乱れ撃つッ! おぃ、何ボーッとしてやがんだ。この俺が直々《じきじき》に援護フォローしてんだぞっ!」

「レイっ! 感謝するっ!」


 次はいつもの相棒(自動小銃)に持ち替えて、霧の最中をいつもの二丁………いや見たことない銃を空間転移で続々と出現させ、レイが滅多めった撃ちにする。

 彼女のコートの中身には、ドゥーウェン辺りに用意して貰った様々な銃火器がそろっているに違いない。


「グゥッ!? ば、馬鹿なっ?」

「ざまあねえな、そうら()()()ぜッ!」


 霧と化した自分を手数で撃ってみたところで、当たる筈がないとタカをくくっていたルイスが苦痛と驚きに顔をしかめる。

 実はレイ、未だに()()()()()いたのだ。ルイスはただ霧になって姿を消すのではなく、別の空間に転移してると想定した。

 そこで消える間際まぎわに空間転移させた自分の銃をいくつも潜り込ませ、ルイスと同じ空間に飛ばすことを思いついたのだ。


 消えてしまったルイスが撃たれたことで無理矢理引きずり出された。左肩と左(もも)を撃ち抜かれた姿が痛々しい。


「これならっ!」

「弟よっ! 仲間の力を借りて恥ずかしくないのか?」

「それも俺の力なんだっ!」


 与えられたこのチャンスを存分に生かし、ようやく剣をまじえることに成功したローダである。

 レイの妙技みょうぎによって成し得たことを侮辱ぶじょくしようとしたルイスだが、ローダの返しに斬って捨てられた。実にローダらしい言い分にレイが思わずニヤリッとする。


 その後も二度、三度と竜之牙ザナデルドラ紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)がぶつかり合って火花を散らす。

 その都度ローダは、ルイスの深層心理しんそうしんりに接触を試みるのだ。ローダの目的はあくまでもルイスのことをもっと深いところまで熟知し、気持ちを通い合わせて互いの妥協点だきょうてん見出みいだすことだ。


 ヴァイロともそうしたようにだ。ルシアがセインと拳を交えることを「あくまで暫定ざんてい……」と言った理由。

 大本命であるルイスとの意識の交わりにおける仲介役ちゅうかいやくに自分とヒビキは戻らないといけない、そうした意味があるのだ。


「オラオラオラァ! 要はタマ獲らなきゃいいってこったろっ! ルイスだかマーダだが知らねえが、俺が10番目とかフザけんなって思っていたぜっ!」


 さらにルイスに致命傷とはならない銃撃をレイが散らしてゆく。これでも容赦しているつもりらしいが、はたから見る分にはとてもそうは思えない。

 ルシアが出来ない仲介役、激しく争いながらもその一方で相手の意識を探るという在り得ないローダの作業を、相手の手数を減らすというやり方で実践しているのだ。


「おのれレイっ! 好きにはさせないっ!」

「おっと危ねぇっ、此奴はフォウのコルテオってナイフだな」

「マー・テロー、暗黒神よ、その至高しこうの力であの者にさばきの鉄槌てっついを『神之蛇之一撃アスピーデ』!」


 愛と敬愛けいあいが同席するルイスがいい様にやられているのを、このフォウが黙って見ている訳がない。

 レイに背後に金色のナイフ(コルテオ)を二本飛ばして威嚇いかくすると、作った時間で硬質化した蛇の影が襲い掛かる神之蛇之一撃アスピーデをけしかける。


「うぉっ!?」

「やらせませんっ…………『雷神カドル』!」


 しかもフォウの神之蛇之一撃アスピーデは、彼女の方からその影を伸ばすのではなく、レイに飛ばした二本のコルテオから飛び出した。

 この不意打ちには流石のレイも驚くのだが、ベランドナが密かに詠唱だけを先に終え、準備していた雷でこれを一掃いっそうする。


「サンキュッ、助かったぜ耳長の姉ちゃん(ベランドナ)

「礼には及びません、それよりローダ様をっ!」

わあってらいっ! 喰らいやがれッ!」


 レイが人差し指と中指を揃えお礼代わりにそれを振るが、ベランドナにとってはその一瞬すらも惜しいと感じる。

 直ぐにレイの顔つきが元の鋭い顔(戦闘スタイル)に戻り、両手を十字クロスにさせながらルイスと、別の相手にも照準を定めて先程の光線銃を撃つ。


 もっとも顔を向けてはいない、アタリをつけて撃っただけだ。レイが放った光線にもっと大きな光線が絡み合いながら目標を射抜いぬく。

 けれども当てられた相手は涼しい顔で、穿うがたれた穴をふさいでしまう。


「効かない効かない、言ったろ? 今の私は不死、しかもあのNo1(ノーウェン)すら超えた存在っ!」


 鬼女オーグリスセインの言葉は煽りだが的を得ている。自らルイスに魂を献上けんじょうし、再生能力とフェネクスの両方を手にした今の彼女は、もしかしたらこの中で一番厄介(やっかい)な存在になったかも知れない。


 堕天使ルシアの拳とて、今の黒ずんだセインを消すことは恐らく出来ないであろう。ルシアが期待を寄せるリイナの覚醒かくせいはまだ始まっていない。

 しつこいようだが、自ら望んで差し出した命だ。ローダの意識を超えた交渉術ネゴシエーションすら期待薄である。


 そのローダについてだが、レイの援護射撃のお陰でようやく兄ルイスの心の奥底へ潜航しつつあった。


 ◇


 王宮につかえる騎士を300年もの長きに渡り、育てる事を伝統としていた高級貴族ファルムーン家。

 その始祖しそとも言うべき存在から、代々引き継がれた言い伝えが、この家には存在した。

 正確には、この教えを後世こうせいに伝えるのことが、この家本来の存在意義であったらしい。


 初代の剣は大地を割り、竜すらほおむったという言い伝えがある。かなり眉唾まゆつばな話だ。

 けれど不完全ながらも扉の力を持っていたのかも知れないと考えると、ただの御伽噺おとぎばなしと切って捨てるのは、早計と言えなくもない。


『300年ののち、この家に我をもはるかにしの神童しんどうが現る。兄と弟、いずれもひいでるが、恐らく弟が、それに当たるであろう。それまでこの家を決して絶やすことなかれ』


 そして時は流れて300年後、ファルムーン家にいた息子はただ一人だけ。ルイス・ファルムーン、当時4歳である。


 しかしある日突然、ルイスの父であるラムダが、生まれたばかりの赤子を抱いて連れてきた。


「この子は、戦火中の町で見つけた。これから家で育てる事にする。ルイス、お前は今日から、お兄ちゃんになるんだよ」

「ぼ、ぼくがおにいちゃん?」

「そうだ、仲良くしてやってくれよ」


 優しく告げると、父はルイスの頭をくしゃくしゃに撫でて、彼を置いて行ってしまった。

 その後ろで暗い表情をしている母テローシャが少し気になったが、その真意を知るのには余りにも当時の彼はおさな過ぎた。


 ローダと名付けられた弟は、可哀想かわいそう戦災孤児せんさいこじ。ルイスは弟が出来た事を素直に喜び、血の繋がった存在の様に優しく接した。


 ローダも兄が大好きになり、剣の稽古けいこ、食事、風呂、寝る時までいつも一緒。二人共幸せを謳歌おうかしていた。


 ただ王宮の仕事が多忙という理由から、ラムダが留守になる機会が増えていき、その度にテローシャの暗い影が濃さの度合いを増してゆく。

 ルイスが10歳になった頃、流石に母の表情の曇りに気がつく程の知恵が回るようになっていた。

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