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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第10部『因縁の兄と弟』編
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第4話 堕天使の実力の片鱗

 ローダの起こした途方もない二つの奇跡、満月の輝きを創造し、金星の輝きすらルシアに注ぎ込み、天使の如き姿と成した。

 その堕天使だてんしルシアが誕生した直後、AYAME Ver2.0(アイリス)によって妻ホーリィーンの幻影を再び呼んだジェリドであったが、現われし妻は幻などではなく、温もりを持つまるで生きている人間として具現化ぐげんかされたのである。


「しかしリィン、一体どうして………生き返った訳ではあるまい?」

「そう……なのよね、私にも正直良く判らないのよ。いて言うなら………」

彼女(天使)………か」


 ホーリィーン自身、何故自分がまるで生き返ったかのように、こうしていられるのかまるで要領ようりょうを得ていない。

 心当たりの(天使)を黙って見上げるだけである、理屈は判らないが恐らくそれに相違そういなかろう。


「と、ところでリイナ………貴女その姿はどうしたって言うの?」

「ママ………じゃない、お母さん詳しい話は後にしよう。今の私は不死鳥フェニックスと共にあるの」

「………不死鳥っ!?」


 ホーリィーンの胸の中で甘ったれるリイナはなりひそめ、獲物を探す猛禽類もうきんるいの如き、鋭き目に移り変わる。

 さらに化物モンスターが群れを成して場所へあえて飛び込み、燃え盛る拳で次から次へと鉄槌てっついを下すのだ。


「キッシャァァァァァッ!!」


 自分の手が届く敵を燃やし尽くしたリイナが、あの独特な不死鳥の鳴き声を上げる。そして間髪かんぱつ入れずに次の獲物へと地面を蹴って再び跳ねる。


 リイナから「詳しい話は後………」とさとされたホーリィーンであるが「不死鳥」の一言とその行動で粗方あらかた察した。

 エドル神殿に伝わりし死を知らない炎の鳥の存在を博識はくしきの彼女が知らぬ訳がない。


「リィン……往くぞ我等も、船上での争いを覚えているかは知らんが、恐らくこの連中も不死アンデッドだ。だから先ず君にやって欲しいこと………判るな?」


 愛娘の変わり様に少々(ほう)けていたホーリィーンだったが、夫から差し伸べられたごつい手を見ながら、直ぐに切り替え凛々(りり)しい顔でうなずくのだ。

 そのキリッとした顔が、15の娘と重なるのを感じるジェリドである。


戦の女神(エディウス)よ、アン・モンド・プリート、この者等の魂を在るべき世界へ『救世サルベザ』!」


 彷徨さまよえる不浄ふじょうの魂を浄化じょうかして黄泉よみへといざなう奇跡、救世サルベザを力強く言い放つホーリィーン、同時にジェリドが戦斧をぎ払うように横へ振るうと、救世サルベザで生じた光が一挙に拡散してゆく。

 またしても自力の低い連中は、それだけで崩れ落ちてゆくのである。けれどそんな事象よりもジェリドは、愛する妻の声が幻影だった時と異なり、明らかな生を感じ取れたことに感動するのであった。


「ホーリィーンといったか、あの女性の覚醒かくせい天使ルシアが、あの親娘の強い想い(希望)を具現化する手助けとなったのであろうな。………見てるかマーダよ、これから我々の想いが次々に形を成してゆくぞ。あの()()の力によってな」


 状況を分析しながらフォルデノの城下町を疾走しっそうし続けるサイガン。そうローダ一人では成し得ないことを二人の力で叶えているのだ。

 ローダ・ロットレンは真の扉使いの言わば真祖しんそになった訳だが、決して己の力だけにおぼれたりはしないのである。

 アクセルを踏む足を決して緩めない59歳の熱き走りが、もう数え切れない敵を蹂躙じゅうりんし続けている。

 心の壁(マインド・シェル)に守られているとはいえ、息子からの最初の贈り物(愛車)のボディーが凹んでゆくのを止められない。


「………これやるならグリルガード※1とアンダーガード※2も付けて貰えば良かったな。………って言うか皆はもう既に飛んで行ってしまったのだが………」

 ※1 車の前の方に取り付けるガードのこと。オーストラリアなどではカンガルーバーと称される。

 ※2 車の下の方、エンジンやガソリンタンクなどを守ってくれる鉄板のこと。


 だいぶ下らぬことを思わずつぶやくサイガンであった。


「そろそろネロ・カルビノンの方は弾薬が切れる筈だ、もっと沖へ撤退の指示を……」


 飛んで周囲の様子を確認しつつ、次の指示も考えるマルチタスクをこなしながら、実に高いフォルデノ城壁を見上げたローダが言葉を失う。


「あ、アレは電磁砲レールガンッ! しかも二門だとッ!? い、いけないッ! ブリッジを狙い撃ちされたら終わりだッ!」


 そんなローダの言葉もむなしく、二砲門の同時射撃が早速なされる。流石のローダとてあの銃弾を止めるすべは持ち合わせていない。


「ハァァァァッ!!」

自由の爪(オルディネ)!!」


 何ということだろう………何時の間にかブリッジとの射線上に飛び込んだルシアが燃え盛る左右の拳で弾丸を殴り飛ばす。しかもご丁寧に城の方へだ。

 加えて地上の闇にまぎれさせていたドゥーウェンの自由の爪(オルディネ)光線ビームを撃って電磁砲台を撃破したのだ。


「フンッ! 今の私の前でそんな小細工許さないよっ!」

「いやいや、次の砲台を用意するまでは想像してましたが、肝心の砲台を此方が見つける前に撃たれてしまいましたね………」

(………しかしまさかアレを殴って止めるとはっ!? 今のルシアさんは音速すら超越ちょうえつしている?)


 いつも以上に鼻息荒く、腕組みして空で仁王立ちするとんでもない天使ルシア。急に動いて乱れた金髪をサッと手櫛てぐしで整える。

 学者の方はローダが天使を呼ぶ儀式を取り仕切ってる間に、キッチリ仕込みをしておいたのだ。


「うおぉぉぉおっ! 示現我狼じげんがろう櫻突おうとつ』っ!!」


 これは珍しいガロウの突きである、彼が突きながら駆け抜けた跡に赤いマグマの道が出来る。当てられた者は言うまでもなく、蒸発したかのように燃え尽きて消えていった。


「よっしゃ、これ(こい)で城下町()方は、まあ終わっただろ(終いやっどが)。………にしても(しっせえ)()はいなかったな(ばおらんかったど)


 日本刀をさやに収めながらガロウがこの戦いの感想を述べる。「つまらんかった」という声が聴こえてきそうだ。

 サイガンも含めて11人、最早この連中にとって、そこいらの名も無き者など虫を踏み潰す程の楽な作業だ

 城下町は敵と一緒に片づけられ焼け野原と化した。その残骸ざんがいを見ていると不憫ふびんに思えるサイガンである。


「さて目指すフォルデノ城はもう目の前だぜぇ~。サッサと片づけてしまいてえな」

「それにしてもあのルイスにせよ、屍術師ノーウェンにせよ、籠城ろうじょうする意味があるのだろうか?」

「うーん……そもそもですが、あんな建物なんて今の私達に取っては砂の城も同然です」


 ちょっと一服………と煙草に火を点けて吹かすレイは、ゴミでも片付けるような言い草である。

 慎重派のジェリドは、フォルテザを強襲してきた際の敵を思い出しづつ見落としがないか考えにふける。

 普段は頭脳を使った攻め方をするドゥーウェンですら楽観的な態度で告げる。

 まあとにかく敵が引きこもり(籠城戦)をするのであれば、後は攻め入るのみである。


「ま、待て……少しだけ俺に時間をくれないか?」

「ローダぁ? まだ何かやることあんのかよ? まさか嫁を天使にするなんてな、この無口な兄ちゃんがこれ程雰囲気屋(ロマンチスト)だとは思わなかったぜ」


 レイがローダに向かって胸を張りつつ追い立ててゆく。レイは身長170cm、対するローダは175cmで若干ローダに軍配が上がるのだが、何せレイは元警察官。

 その姿で詰め寄られるとはたから見たら尋問じんもんを受けている犯罪者に見えなくもない。


「お、俺自身の準備なんだ。言わば装備を整えるようなものだ」

「ちょっとレイさん、ローダ兄さまは、ただ相手をやっつければいいって訳じゃないんですよ。これは色々と気をつかう必要がある戦いなんです」


 攻め入られるローダの前に不死鳥化したリイナが割って入る。身長155cm、銀髪をなびかせる司祭を上から見下ろす同じく銀髪の女警察官。

 司祭と警官、何れも強い規則を揺るがぬ意志で守護する者同士がやり合っている。


「れ、レイさん………」

「よ、よしなさいリイナ」


 何故かドゥーウェンがレイを、一方リイナを止めたのは母親のホーリィーンであった。

 レイとリイナ………お互い熱く(ヒート)したところを止められてふと気がつく。

 ………一体何に熱くなっていたのだろう。


「此処から先は色んな意味で本気をって兄貴と対峙たいじする必要があるんだ………何よりも俺自身がな」


 フォルデノに上陸する以前から準備を重ねて覚悟を決めたつもりであった。けれど手を伸ばせば届きそうな位置にある城からただよう異様な雰囲気に、思わず息を飲むローダであった。

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