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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第2部『仲間達の邂逅』編
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第4話 ミスマッチな戦斧と細い剣

 黒の軍団第3の男(ヴァロウズNo3の)トレノは、町の元・闘技場の真ん中で腕組みをしながら戦いの相手を待っていた。


 本来この場所は町の戦士達が、己を磨く為に仲間と戦い合い、それを観戦しに来る民衆達が、勝手に賭け事を始めて騒ぎ立てるという、活気に溢れた場所であった。


 だけどこれから始まろうとする戦いを楽しもうとするやからは一人もいない。


 実は身を隠しながら、これから始まる事を見届けようという者はいるのだが、決して陽の当たる場所に出てこようとはしなかった。


 3カ月前に余程恐ろしい目にあったのであろう。


 そして相手がやってきた。上半身から腰の辺りまで、白塗の鋼の鎧で覆われている。


 両手には革製のグローブ、両脚は膝までを覆ったブーツを履いており、それらも白塗りである。


 歴戦での傷跡が多く、少々くたびれた印象ではあるが、赤い縁取りの線が入った如何にも高貴な印象を与えるのに十分な業物わざものである。


 だが胸の中央部だけ、何故か不自然に削り取った様な跡があった。


「ほう、そうか貴様、フォルデノの元聖騎士であったか」


 相手の装備を見るなりそう言ったトレノ。しかし言い当てたというのは少し異なる。

 島の住民であれば、大抵この鎧の意味を知っているのだ。


「そう言えば聞いたことがある。5年前、フォルデノ王がアドノス統一を宣言したその集会の最中、自らの兜を地面に叩きつけて、フォルデノ正規軍の証である竜の紋章をナイフで削って立ち去っていった男の話を。ジェリド、貴様であったか」


 トレノや女魔導士のフォウ、そしてティン・クェンという女戦士など、マーダが率いるいわゆる黒の軍団は当時居なかった。


 よってあくまで聞いた話でしかないが、そんな豪胆な事も彼ならば、堂々とやってのけることだろうとトレノは思った。


「アドノスの兵は皆、守る者は国にあらず、ましてや王にあらず。護りしはアドノスそのもの。フォルデノの騎士は民衆の先陣に立って、この島の民衆を守る為にのみ存在する。王はその誓いを反故ほごにした。だから私は軍を抜けた。ただそれだけの事だ」


 そしてジェリドは戦斧バトルアックスを両手で握りしめ、トレノの正面に立ちはだかった。


 彼の斧は柄が足の長さほどもあり、柄の先には如何にも斧らしい半円で頑丈な刃が付いている。


 さらに半円の先端からは、槍の様な鋭い刃が突き出していた。木こりや森に住むドワーフが使う様な斧とは、だいぶ様子が違うものだ。


 どちらかと言えば斧というより槍に近いが、なれど槍より一回り全体的にごつい。


「どうした? 始めないのか? まさか私と話をしに来たのではあるまい?」


 武器の先端をジェリドは、クィと手元へ寄せる。挑発しているのだ。


「嗚呼、始めよう」


 トレノは、腰に差した剣をスラリと引き抜いた。刀身が細く一見、突きに特化したレイピアかと思いきや、両刃の刃物であり、長さだけならロングソードの様に長い。


 柄も長いので両手で構える事が出来る剣である。


「エストックか。少々変わった得物だな」


 ジェリドは身構えた。恐らく矢の様に速い剣戟けんげきを繰り出すに違いない。


「貴様ほどではないと思うがな」


 トレノは苦笑いしながら、エストックの柄を両手で握り、剣先を視線の高さほどまであげて、正眼せいがんの構えを取った。


 まだ互いの武器が届く距離ではなかったが、一歩間合いを詰めればたちまち戦端が開くであろう。


 トレノは剣先を小刻みに震わせた。無論、本当に震えている訳ではない。


(東洋の剣術にある、確か……鶺鴒セキレイの構えとか言ったかな。ああしているところから、いつでも攻撃にも防御にも転じることが出来そうだな。成程、達者なのは口だけではないらしい)


 ジェリドは身動き一つしない。だけど彼にも全く隙が見当たらない。


 トレノが速射砲を打ち込もうとする身軽な身のこなしであるのに対して、ジェリドはその身全てがまるで鉄壁の要塞の様であった。


 緊張感漂う睨み合いが暫く続く。


 先に動いたのはトレノであった。エストックの切っ先をそのまま振り下ろした。

 ジリジリと間を詰めてはいたが、まだ拳一つほど届かない間合いのはずだ。


 ジェリドの読み通り、一撃目は宙を切った、と思いきや落ちた切っ先が、直ぐに跳ね上がってきたのだ。


 拳一つの間合いは完全に詰め寄られていた。トレノの一撃目は相手を斬る為ではなく、間合いを詰める為のおとりであった。


 鋭い攻撃だがジェリドは慌てる事なく、自分の胸元に迫る剣を斧の脇の部分を盾として使い、身を守ろうとした。


 しかしそのまま上に上がると思われた剣の軌跡は、ピタリと止まり…と思いきや、今度は前へと突きに転じた。


 その先はジェリドの鋼の鎧の隙間、毒蛇が狙いを定めて牙をいて来た様な一撃であった。


 変幻自在なこの連撃には流石のジェリドも、この場を動かずとはゆかなかった。


 しかしその要塞の様な身体は、意外な程身軽に後退すると、今度は戦斧の切っ先を槍の様に突き出した。


「遅い」


 トレノは言いながら射程の外へ逃れると、再び鶺鴒の構えに戻った。


(フフッ、なかなかにやるものだ)

三撃目あれかわすのか、成程、ティンが苦戦する訳だ)


 斧とエストックは互いの強さを認め合った。


 次にトレノは剣をさやに収め、利き手の右手だけで柄を握り、前傾ぜんけいの姿勢を取った。


(なんだあれは? 抜刀術か? 彼は本当に剣士か、侍ではないのか?)


 ジェリドは相手のペースにのせられ過ぎだと思ったが、刀ではない真っ直ぐな剣で、どの様な抜刀術を繰り出すか少し興味が湧いてしまった。


 第一、この戦斧を槍の様に突き出してしまえば此方の間合い勝ちなのだ。


 ジェリドは思った通りに、戦斧の先端を槍の様に突き出す連撃を繰り出す。


 素早い身のこなしでトレノはそれをかわしたが、ジェリドは突き出した戦斧を次は引くのではなく、横にぎ払う様な攻撃に切り替えて、相手の脇腹を狙った。


 諦めて右手の剣を抜くかと思いきや、彼は軽く跳躍ちょうやくすると、ジェリドの戦斧の斧の部分に着地。そのまま踏み台にして、ジェリドに向かってさらに跳躍した。


 なんという身のこなしであろうか、此処が日本を舞台にしているのであれば、弁慶に対する牛若丸と表現したい処である。


「もらったあッ!」


 勝利を確信したトレノは、右手のエストックを瞬時に引き抜いた。この剣は直刀であるが、刃が薄く柔らかい。

 剣はしなりながら鞘を飛び出した。

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