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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第9部『何処までも黒き進軍』編
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第11話 例えルイスを救えなくとも……

 カノン宙域での海上、朝陽が昇り闇の時間は終わりを告げた。軍艦ネロ・カルビノンから見えるカノンの中でも谷底に住む人々には当たらない太陽だが、海の上なら話は別だ。

 朝陽に照らされる波がキラキラと反射してまぶしくもあれど、美麗びれいの方に軍配が上がる。

 特に白鳥の如き竜に乗りながら、愛する夫に抱えられつつそれらを眺めているルシアにとっては、より格別に映ることだろう。

 なおローダの真後ろに騎乗していたルチエノの姿は、そこにはいない。この新婚夫婦の邪魔になると思ったのか、自らの黒い翼で飛行している。

 不死鳥フェニックスの効果が未だ持続中のリイナもそれに加わろうかと思ったが直ぐに思い留まった。

 これも至福のひと時を感じているルシア姉さまへの配慮だ。本当にこの少女は成長がいちじるしい。


 プリドールとジェリドの二人組ツーマンセルがヴァロウズ5番目のティン・クェンを撃破し、ケンタウロスのゾルドによる自爆にルシアが巻き込まれるところを、ローダが救出した辺りでこの海上戦そのものも、大方のケリがついていた。


 シグノの豪快ごうかいたる炎の息(ドラゴンブレス)で遠距離の敵は粗方あらかた蒸発したかのように消え、レイの電磁砲レールガンによる射撃精度は、「肉片すら残すな」と言われて以来、冴えに冴え渡って必中の度合いをより強めた。


 余った赤い肉片達については、ドゥーウェンの自由の爪(オルディネ)によるビーム攻撃と、リイナが船の周囲を縦横無人じゅうおうむじんに飛び回り、これらを焼き払っていった。

 加えてベランドナが炎を付与エンチャントした弓矢を正確に当ててゆく。

 ランチアの方は、火薬を仕込んだジャベリンを次々と撃ち込むというやり方で拮抗きっこうした。

 一番ワリを食ったのは日本刀のガロウである。示現我狼じげんがろうの乱撃ちが出来ないのだから、愚直ぐちょくに細かく斬り刻むより他にやりようがない。

 打ち漏らした分は、ネロ・カルビノンの機銃掃射きじゅうそうしゃなどで対応して貰ったのだが「これなら最初から撃って貰った方がはえぇ」を愚痴をこぼした。


 海中から船の底面に張り付かれ分など、少々の爆発は流石にまぬがれなかったが、黒き竜(ノヴァン)の鱗を使った船体は良く持ちこたえた。


 結果、目に見えて大きな被害はティン・クェンが爆破した甲板上のみであり、航行の影響はないと判断された。

 彼女の意志による自爆だったのか、はたまた起爆を押されたのか、これだけはさだかではなく、また当然だが後味の悪いものを残した。


「しっかし、こんなデカい竜が出せるなら、皆これに乗って飛んでいけば良かったんじゃねえ……」

「ガロウさん、今それを言うのは野暮やぼってものじゃないですか?」


 自分があまり活躍出来なかった流れからか、あるいは本当にそう感じたのか、ガロウがボヤキ気味で突っ込もうしたところをリイナによって制される。

 ニコニコしながらロットレン夫妻を指差すリイナだが、もう片方の手は拳を握り未だにくすぶり続けている。


「はい……だ、黙ります……」


 リイナの不死鳥化はまだ解けてはいない、拳はおろか指で弾かれるのですらゴメンだとガロウは感じ、自らの口をふさいだ。

 正直自分の言うことが間違ってるとは思えないが、竜之牙ザナデルドラをシグノに戻せるかは未知数であったらしいから、確かに野暮であろう。

 さらに幸せそうな風の精霊すら見える気さえするルシアの笑顔を見ていると、兄弟子としても、妻子を持つ身としてもいよいよ格好悪いと考えを改めた。


「ルシア……」

「んっ、なあに?」

「俺……フォルデノ城に着くまでに、どうしてもやってみたいことがあるんだ」


 いつまでもこの幸せにひたっていたいルシアであったが、自分を抱えた夫の視線は、既に真っ直ぐ前を向いている。それはこの島に渡って来たときからブレてはいない。


 彼の見据みすえた先にあるもの……それはルシアとて痛いほど理解している。兄ルイスを連れて帰ることに決まっていた。

 もう何度目かになるが「ローダの背中は私が守る」と誓った訳だが、それはあくまで戦いにいての話に過ぎない。

 マーダすら乗っ取ったルイスを救い出す、その事の顛末てんまつまで力になれる自信がこのルシアですらなくなりつつある。

 それはもう単純に考えがそこまで及ばないし、何しろローダのいつまでも真っ直ぐな瞳が必要としていない気さえするのだ。


「……うん、判った。勿論良いよ、ただ……」

「んっ?」

「決して無茶はしないでね、もし貴方がいなくなったりしたら私……」


 …………違う、真にルシアが伝えたいことはそうじゃない。「例えルイスを救えなくとも貴方は生きて私の元に帰ってきて」と言いたいのだが、こればかりは言って聞いてくれるとは到底とうてい思えないのだ。


「大丈夫だ、決してお前を悲しませる結果にはしない。さ、俺達も船に降りよう」

「………うん」


 強く、たくましく、頼りになってゆく彼は言うまでもなく嬉しい。だけど寂しさも片隅かたすみで感じてしまう自分は何と我儘わがままなのだろう。

 そんな気分を心の奥底に押し込んで、ローダと共に甲板上に降り立つルシアである。


「ルチエノ、頼みがある。生き残った仲間達を出来る限り船の上に集めて欲しい。乗れない者達もいると思うが……」

「判りました、お安い御用でございます」


 笑顔で応じたルチエノが再び、人間には聞こえない口笛を吹く。同じハーピーや先程もいた半魚男マーマン半魚女マーメード、他にはマーメードに翼が生えたセイレーンや、二足歩行で剣を握ったワニ人間など、あれよあれよと湧いて出てきた。


 確かに甲板上に全ては載せきれず、海上から首を出す者、空を旋回しつつ此方を覗く者……ちょっとした百鬼夜行ひゃっきやこう様相ようそうていす。


「ルチエノ、此処にいる仲間達で150年前の生き残りというのはどの位だ?」

「えっ………ええっと、そう…ですね。ザッとなのですが50人はいると思いますがそれが何か……」

「50? 亜人というのはそれ程までに長寿なのか?」


 ローダが試してみたいことが気になって、サイガンですら甲板上に降りてきた。その数字を聞いて細い目を丸くする。


「俺達に言わせりゃ人間が短命過ぎんだよ、貧弱にも程があるってもんだ」

「口が過ぎますよ、人間族が現れたお陰でそれを依り代(よりしろ)にした私達が丈夫で長生き出来ているのですから……」


 さっきのワニ人間が驚く老人をあおり立てると、ルチエノが厳しい顔でそれを制した。


「それでローダ様、私達は一体何をすれば宜しいのでしょう?」

「あ、いや、良いんだありがとう。ただそこにいてくれる……そうだな、では出来るだけで良いから150年前の戦いでの出来事、感じたこと、何でも良い、なるべくそこに意識を向けてくれ」


 亜人族デミヒューマンがガヤガヤとさわぎ出す、一体この人間は何を始めようというのかまるで要領ようりょうを得ない。それはルチエノとて同じである。

 …………喧噪けんそうの最中、一人ローダは胡坐あぐらを組んで両目を閉じる。


「うぉっ!」

「い、一体何をたくんでやがる!」

「静かに………この御方は何も私達に危害を加えはしません」


 亜人族が驚くのも無理はない、つい今しがたまでローダとルシアの周辺だけでチラついていた緑色の小さな光が、突如ローダを中心にネロ・カルビノン全体を覆う程の輝きとなったからだ。

 しかもそれらが亜人族に侵入してゆくかのにように見えたからだ。その途端、ローダの顔に辛さが浮かびまゆをひそめる。


「ま、まさかこやつ………この中からその50人を探し当て、しかも同時に彼等の意識を読み取ろうとしておるのか?」


 これには人の心を数値化するすべを持つサイガンですら恐れおののく。生物の脳………増してや人族と同等のものを抱える50人分の意識をまとめて処理する。

 スパコンですら決して処理し切れる筈もない情報の波が、人間の脳に流れ込むのだ。過負荷オーバーロードに耐え切れず自滅する。

 いくら扉が使えようともこれは余りに無茶が過ぎるが、どう救ってやれば良いのか、見当すらつかなかった。

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