表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第9部『何処までも黒き進軍』編
146/245

第9話 竜之牙の正体が蹂躙を始めてゆく

 ヴァロウズの女戦士ティン・クェンVs馬上槍(ランス)の使い手、赤い鯱(プリドール)と戦斧の騎士ジェリドの戦い。


 拳闘を得意とするティンがその華麗なフットワークで二人を圧倒するかと思いきや、ジェリドの知恵と重戦車の如きプリドールの二人組(ツーマンセル)が見事に機能し、今のところ優勢に事を成している。


 一方、鳥人間(ハーピー)のルチエノから、捨て身の爆弾作戦を聞かされたローダは、早速全ての仲間達へ打電する。


 二丁拳銃のレイ、示現流(じげんりゅう)侍大将(サムライマスター)ガロウ、槍斧(ハルバード)の使い手ランチアの三人は、フォルデノ城での戦いに備え、赤い輝き(アイリス)を出し惜しみしている場合じゃないと言い切った。


 ―アイリスを使うのは少しだけ待ってくれないか………試したいことがある。それを見届けてからにして欲しい。


 皆に危機を知らせ、アイリスを煽動(せんどう)したかに思えたローダが接触(コンタクト)で次はまさかの「待った」を告げる。


「な、何だと? じゃあそこまで迫って来てる爆弾共はどーすんだよっ!」


 キレ気味にレイが言い返してくる、至極真っ当な反論であろう。


 ―船に張り付く直前の奴等を優先して消して欲しい、半径100m以内に迫られた分は、俺の()()()が成功しても上手くはいかない………頼む。


 ローダの声は相変わらず愛想が少なくキレの悪い応答だった。これを質問されたレイのみならず、またも全員に向けて(オールレンジで)流してゆく。


「チィッ! 暴れんのはお預けってかァ? 判った、期待してるぜローダの坊や。………とは言え俺の電磁砲(レールガン)で近距離は分が悪い。此方は変わらず近づける前に狙い撃つッ!」


「レイっ!? ったく……その物判りの良さは何だあ? 肉片(爆弾)の後始末かよ………おぃローダっ! そのお試しが駄目な時は、もう誰の言うことも聞かんからなっ!」


「俺のジャベリンはせめて魚を獲る方に使いたいもんだが……ヤレヤレ、了解したぜ」


 舌打ちした割に苦笑いが入り混じった声で返事するレイ、ガロウとランチアが「俺(たちゃ)ゴミ処理班かよ」と文句を()れるが、この二人とて本気で怒っている訳ではなさそうだ。


 そんな押し問答をしている最中、残った4つの自由の爪(オルディネ)達が、ネロ・カルビノンに近寄って来る赤い肉片を光線(ビーム)で焼き払う。


 ―了解ですローダさん、一体何を見せてくれるのか知りませんがお任せあれ。


 ―皆の者、聞いての通りだ。あのケンタウロスと女戦士を相手にしていない者は船周囲の迎撃を密に。機銃、ミサイルが扱える乗組員(クルー)も総動員だ。


 さらに不死鳥の力で飛ぶリイナが、近づく肉片を次々と燃え(たぎ)る拳で叩き潰し続けてゆく。


 同時に再び操舵(ステア)で燃えるナイフを操り、今度こそはと確実に消し炭にする。


 カノンで初披露した不死鳥(フェニックス)の力、あの時は少々力に(おぼ)れたきらいがあったが流石に賢い15歳だ。


 微笑ましい、そして実に頼もしい、味方が、そして何より我等がリーダー(ローダ)が本物に成りつつあると感じたドゥーウェンとサイガン。


 互いに顔を合わせて微笑する。「もう少しリーダーらしい声を出して欲しいもんだがな」と義父(サイガン)は付け加えた。


 さて………そのローダである。ルチエノが不安視している目前で、目を閉じ意識を高めてゆく。


「………『竜之牙(ザナデルドラ)』」

「うわっ! えっ? 竜之牙(ザナデルドラ)ってまさかあの……」


 ローダの呼び掛けに瞬時に応じ、竜之牙(ザナデルドラ)が、二人の目前にその白い刃を見せつけて姿を現す。


 ローダはこの武器を携帯していた訳ではない、本当に呼び寄せたのだ。ロングソードを(さや)に収め、竜之牙(ザナデルドラ)(つか)を握る。


 その様子を(なつ)かしくも恐ろしい思い出と共に見つめるルチエノである。暗黒神(ヴァイロ)を負かした相手の愛刀が、味方のリーダーに握られている。


 何とも不思議な輪廻(りんね)だと感じずにはいられなかった。


「さあ竜之牙(ザナデルドラ)よ、その真の姿を我が前に示すのだっ!」

「え………ふわぁぁ!」


 ルチエノの驚きの連鎖(れんさ)が止まらない、竜之牙(ザナデルドラ)数多(あまた)の白い鳥のような羽を撒き散らしながら、大剣であった姿を捨てる。


 大量の白い羽が集まったかと思いきや、白い鳥のような巨大な竜が、悠然(ゆうぜん)とその姿を(あら)わにしたではないか。


「ま、間違いないです。これは私達が相手をした白い竜……シグノです。ざ、竜之牙(ザナデルドラ)に化けたところは150年前にも見ましたが」


「そうか、やっぱりルチエノはこの竜を知っているんだな。……ということは取り合えず成功だ、さあ行こう共に……」


 生き証人であるルチエノが「間違いない……」と驚くのを見てローダの方は安堵(あんど)する。これがシグノでなければ大失策だ。


 まるで飼い主であるかの気軽さで、ローダはヒョイと自分達の何十倍もありそうな首の上に(またが)ると、ルチエノへ向かって手を差し伸べる。


(ま、まさか黒の方(ノヴァン)でなく此方に騎乗する日が来ようとは……)


 実に複雑な想いを織り交ぜつつルチエノがその手を握り、ローダの後ろに乗り込む。


 馬の首でも小突くかのようにその白い首をポンッと叩くと「キィ……」と意外な程、可愛げのある鳴き声と共に大きく羽ばたいゆく。


「う、うわぁぁぁっ! は、速いですっ!」


 ルチエノとて150年前の戦場にて、瞬間移動とも思える他を圧倒する飛び方を嫌というほど目撃した筈である。


 戦の女神(エディウス)を載せたシグノは、神の都ロッギオネからヴァイロ達の住むカノンまでを数時間で往復したという。「お、落ちるっ!」と叫びつつルチエノは、咄嗟(とっさ)にローダへしがみついた。


「ろ、ローダお兄さまっ!?」

(な、何よアレ?)


 ネロ・カルビノンの後方へ飛んでゆくその姿を目撃したリイナとルシア。白く美しい竜に(またが)仲睦(なかむつ)まじい男女のような記憶を二人に焼き付けてしまう。


 …………だがまあこの話題は、正直面倒なので取り合えず拡げないこととする。


 シグノが早速その巨大な口を開けて大きく息を吸い、一挙に噴き出す。


 ベランドナが創った雷撃……雷神(カドル)よりも幅広で、遠距離まで届く竜の息(ドラゴンブレス)が赤い肉片を燃やし尽くした。


「せ、先生っ! あのドラゴン一体何処から!?」


「………ローダに竜之牙(ザナデルドラ)を預けたと言ったであろう。アレが、アレこそが竜之牙(ザナデルドラ)の本体、シグノだ」


 ドゥーウェンに答えを告げるサイガンとてその目で見るのはこれは初めて。こんな外野の会話しているうちに既に幾度(いくど)も同じものを吐き続けている。


(これは勝ったな……海上戦は我々の勝利だ)


 ニヤリッと笑いつつ此方の勝利を疑わないサイガンであった。


 ◇


 ルシアとケンタウロスのゾルドによる争いに場面を戻す。ルシアの見事な連撃から(かかと)落としに頭を揺さぶられ、動きを鈍らせるゾルドである。


 顔には燃える爪(ヒートニードル)による火傷の跡……実に痛々しい姿だ。


「フンッ!」


 お次は鼻息一つでヒートニードルと共に左拳を真っ直ぐ突き出す。ゾルドの盾が目の前にあったのだがお構いなしで、左肩まで貫通させる。


「グアァァァ! な、何のこれしきっ!」

「クッ!?」


 ゾルド一番の強みである足を活かして劣勢(れっせい)にも(かか)わらず、突き刺された盾もろともブチかましを狙う。


 これはゾルドに一応の軍配(ぐんばい)が上がる、盾を突き刺したことがルシアに取っての裏目となった。


 その場に固定を余儀なくされ盾越しに受けた衝撃で(うめ)き声を上げてしまう。


 もっともゾルドとて肩に刺さった爪がさらに深くなってしまうことで傷口から大量に出血する。然も焦げる自身の肉の匂いが鼻をつく。


「つ、遂に(とら)えたぞ女ッ!」

「ど、どこがっ!」


 正にその身を切らして骨を断つ、ルシアのヒートニードルが根元まで刺さりゾルドの肩とルシアの拳が密着している。


 ルシアは左手首を外へ払うことでゾルドの肩を斬り裂いて抜け出そうとしたのだが、相手はそれを許さず左肩の筋肉に力を込め、さらに三日月刀(シミター)を捨て、ルシアの左腕をガシリッと握りしめた。


 …………確かにこれでは逃げられない、けれどもこの状況でゾルドが出来る攻撃とは一体何か?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ