第11話 激白! 拳銃使いのVer"2.1"
―ま、マスター! しっかりして下さいっ!
「べ、ベランドナ? ドゥーウェンが意識を失っている!」
―クッ………クソッ! この化物がッ!
「ガロウ、ボロボロじゃないかっ! それに何だ、あの首しか残っていない相手は!?」
―こ、こんな奴等相手にあの力なしにどうやって戦えって言うんだいっ!
―も、もう俺達だけじゃ流石にもたねえッ!
「プリドールなのか? ランチアも………アイリスを使い果たしている?」
緑色の輝きをローダとルシア………加えて二人のまだ見ぬ胎児から吐き出した途端、ローダの意識の中に、重体で意識を失ったドゥーウェン、それを支えるベランドナ。
アイリスの力を失い、それでもなお鞘をを杖代わりに立ち上がろうガロウ。
同じくアイリスを失って、地上へ落下するしかないランチアとプリドール。
…………大切な仲間達の過酷な現実が映像を見ているかのように伝わってくる。
「み、皆がッ! さ、させるかあぁぁ!!」
ローダの仲間を想う叫び声と共に、地下牢にいる皆を光で包み込む。そのまま忽然と姿を消した。
「……んんっ」
「…………マスター、大丈夫なのですか?」
ベランドナに肩を担がれながら完全に意識を失っていたドゥーウェンが、起こされたように目を開く。気がつくと例の緑色の輝きの渦に包まれている。
(いや、これは寧ろ戦いの前よりも自分の中に力が湧いているのを感じる。まさかこれ程とは………これならまだ戦える!)
ドゥーウェンは身体の痛みが消えている事に気がつく。それどころか痛みも身体の自由も力すら戻っていると実感する。心配するベランドナに「もう大丈夫……」と促した。
「うおぉぉぉ! こ、これは何事だあ! 力が漲っているぞ!」
不意に戻るガロウの鹿児島訛り。そして再び刀が真っ赤に輝き始める。折れている筈の脇腹の痛みを一切感じない。
地面をダンッ! と踏みしめて立ち上がるとルイス達三人の敵に睨みを効かせる。
「い、いけるぞぉぉ、これならッ!」
「だ、団長。やれそうか? 再び!?」
「当ったり前よぉぉ!!」
アイリスの力を失い、地上に墜ちる寸前であったランチアとプリドール。フワッと何かに持ち上げられたことを二人は感じる。
消えていた青いシャチと赤いシャチが勝手に復活を遂げて二人を支えたのであった。戦いに対する炎を再び滾らせ、その両目にも輝きが戻る。
「こ、こいつら一体!?」
「こ、これが………この輝きこそが二人の本来の力なのか!?」
(いや………二人じゃないっ!? 鍵と扉だけの力ではないだと?)
失った身体を完全に再生したノーウェン。人知を超えた存在の彼ですら、この敵の異変に驚きを隠せない。
酷く負傷したフォウを両手で抱えながら、ルイスは自分の想像………いや考察に誤りがあった事に気づく。
「る、ルイス………様? むっ!? こ、これは何事?」
いつの間にかルイスに抱えられていた事に先ずは驚くフォウ。加えて周囲の異変に気づく。完全に戦意を喪失していた筈の白の連中が、散りばめられた緑色の輝きに包まれて復活を遂げている。
フォウは迂闊にもその光景に、美しいと一瞬心を奪われてしまった。
突如として緑色の光の渦の中心から6人の勇士達が出現する。
相手の心に訴えかける術を操り、最早アドノス島の民衆軍全ての総司令と言っても過言ではないサイガン。
素早い動きと二丁拳銃で相手を圧倒するレイ。
柄の長い戦斧を棒きれのように振るい、その揺るがない勇気で戦うジェリド。
戦の女神の司祭でありながら、不死鳥の力で肉体強化して相手を寄せ付けないリイナ。
精霊術を自らの身体に付与した己の全身を武器に、あらゆる武術を駆使するルシア。
…………そして真の扉を開く可能性を秘めた青年、ローダである。
何れの面子も凛々《りり》しく、さらに気高い姿を晒している。その圧倒的な存在感、力無き者は見ただけで逃げ出すであろう。
「4番目に………あの良い趣味してんのが1番目かあ? そしてかつてのマーダ様ときたもんだっ! 此奴はもう選り取りみどり………」
宙に浮いているルイス達を見上げながら、先ずレイが景気のいい言葉を発した。
「AYAME Ver2.1 アイリスッ!!」
レイの言った数字2.1に誰もが驚き、彼女を凝視しようとしたが、何故かその場に姿はもうなかった。
「ヒャアハァァッ! さあエルフの姉ちゃん! 例のヤツ宜しくぅ!!」
「………ほ、炎の精霊達よ、あの者の拳銃に宿れ」
姿を消したレイは、気がつくとノーウェンの真後ろに出現し、既に相棒の二丁を構えていた。
ベランドナはその余りに突然の依頼に戸惑いながらも、要求に応える。
「サンキュッ! さあ喰らいやがれぇぇぇえ!!」
拳銃を好き放題に乱射するレイ。銃撃を受ける度に再生したばかりのノーウェンの全身が激しく揺れて、その胴体に次々と風穴が空く。
レイのシルバーのロングコートが揺らめく姿は、実に格好良くその存在感は、道化師のようなノーウェンにも引けを取らない。
「こ、この力………空間転移!?」
良いようにやられながらもノーウェンは、なんとか反撃に転じようとする。左手首を人間の可動域すら超えた後ろに回し、レイに何かの暗黒魔術を使おうと試みる。
「おっと! やらせはしねえっ!」
レイがさらに景気良くそう告げると、ノーウェンの前方に黒い穴の様なものが現れた………と思いきや、そこから炎の銃弾が飛び出す。
(な、銃弾だけ!?)
魔法を使おうとした左手と、彼の右目を突然前から襲ってきた炎を帯びた銃弾が貫いた。
「クーッ! 最高最高ッ! たまんねえなあ、この力っ! 愛してるよドゥーウェンちゃん!」
最高潮、絶好調を声に載せるレイ。空になったカートリッジを落して、素早く次を装填する。
「ま、マスター!? あれは一体!?」
「あぁぁぁっ! 止めてっ! 言わないで下さいーっ!」
無双するレイの力とて意識を奪うのに充分なのだが、ベランドナに取っては、2.1という数字と、突飛もなく寄越してきた「ドゥーウェンちゃん!」の方が気になって仕方がない。
ドゥーウェンが激しく頭を搔きむしり、顔を真っ赤にしながら必死に訴える。
「ま、ま、マスター? ま、まさか……」
「ど、ドゥーウェン? お前さん一体どうした?」
「嗚呼……き、聞かないで下さい。ベランドナ、ガロウさぁぁん…………」
いよいよ怪訝そうな顔をする二人にドゥーウェンは、要らぬ動揺を持って返答に困るので、返って周りからの視線が集中する。
皆、本来ならばそれぞれ相手を見つけて戦いを挑むべき所なのに、この奇妙なやり取りに意識が持ってゆかれてしまう。
「レイよ………お前、彼に何をしたのだ?」
「だ、駄目………や、止めて………」
ジェリドはドゥーウェンよりも返答が早そうな方に声を掛けてみる。ドゥーウェンの動揺っぷりは、まるで何か大切なものを奪われた幼気な少女のソレに似ている。
「なーに、簡単な話さ。そこの童貞もどきみたいな学者様の遺伝子をちょいと拝借しただけよっ!」
「ちょ、ちょっと! レイさん!? 嗚呼………」
「いやあ、何せ俺も久しぶりだったからさあ。色々と美味しかったし、良い思いさせて貰ったわ! アーハッハッハッ!!」
本当に痛快な様子でレイは答えてしまった、当然敵味方関係なく全員に届いてしまう。加えて声高らかに笑いながら、さらにノーウェンを撃ち続けた。
「え…………それって……つまり………」
リイナの顔が朱に染まるのかと思いきや、恥ずかしさを通り越しスンッと真顔になった。
他の女性陣も何やら不自然な咳払いをしながら顔を背ける。
「弟子よ、お前もか……」
サイガンが情け容赦なくポツリとトドメを刺した。
「…………あ、そういう事か」
「貴方にだけは言われたく、あ・り・ま・せ・んッ! 大体、僕は奪われたんですよ!」
ようやく状況を飲み込みポンッと手を叩くローダは相変わらずの朴念仁《鈍感ぶり》だ。
これにドゥーウェンは、食ってかかるが、言えばいう程、見苦しいことこの上ない。