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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第8部『フォルテザ襲撃』編
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第5話 死ぬことを許されない暗黒神の成れの果て

 7番目の巨人族セッティンが重力魔法『神の足枷(ディオカテナ)』を使ったにも関わらず敗北した。

 青い鯱(ランチア)赤い鯱(プリドール)がアイリスで開いた扉によって呼び出した巨大な青いシャチと赤いシャチによって喰い殺されるという、何とも衝撃的な最期であった。


 これでランチアとプリドールは次の標的をノーウェンに定め、互いのシャチに騎乗したままガロウに合流しようと息巻いている。

 暗黒神の魔法をゼロ詠唱で操り、死んでしまったヴァロウズの強者ですら呼び出せるノーウェンといえどこれは流石に分が悪いかも知れない。


「…………と、言うことらしいがどうするか(いけんすっか)? また死兵を呼ぶのか(んどか)?」


 ガロウは蜻蛉とんぼの構えのまま赤い残像を残しつつ、遂にノーウェンのふところに入る。

 ルイス側の面々のシールドとやらは、扉の力が通じないらしいが、ガロウの示現我狼じげんがろうそのものは、彼自身の力であるので充分通用する様だ。


「死兵はまだ用意出来るがね、しかし今はお前達と我が暗黒神の力で存分に戦いたくなったよ」


 ノーウェンの顔つきが真剣になり、少し本気を出そうという気分に至ったらしい。

 指に生えた長い爪の1本を自らへし折るとそれを握りしめる。それが伸びてちょうど日本刀の様な姿へと変化した。


「おっ? 魔法使い風情ふぜいおいと刀で勝負するのか(すっとか)?」


 ガロウは挑発ちょうはつしながら容赦なく蜻蛉の構えから刀を振り下ろす。なれどアッサリとノーウェンの刀に止められ、鍔迫つばぜり合いとなった。


「魔法使い風情? これはな事を言う。我は曲がりなりにも元・神ぞ。魔法とか剣………そんなたぐいは、既に超越ちょうえつした所にいるのだ」


 そう言いながら空いた左手に黒い大きな影の様な何かを用意する。加えて間髪かんぱつ入れずにガロウの腹にぶち当てた。


「ぐはっ!!」

「ほぅ………一発分とはいえ、我の神之蛇之一撃アスピーデをこの至近距離で受けて耐えるか。これもアイリスとやらの恩恵おんけいか?」

(クソッ! あばら3本は逝ったな、これ(こい)いけない(いかん)……)


 遂にガロウがこの戦いにて初めてその身に攻撃を受けてしまった。

 次の攻撃をあえて入れずに余裕を持った顔をしているノーウェンに対し、ガロウは痛い筈の腹をさする事なく次の攻撃に移る。相手に故障を悟らせたくない。


(………『櫻打おうだ』っ!!)


 ガロウが技名を口にせずに頭の中だけで叫ぶ。相手は目と鼻の先。

 刀よりつかで殴りつける方が速いと思った。その満身創痍まんしんそういの一撃が、意外にもノーウェンの前頭部を直撃した。

 しかし直撃を受けた筈のノーウェンは冷笑し、逆に攻撃を入れた筈のガロウの顔が苦痛にゆがむ。


(か、固()! 直撃の筈(じゃ)!?)

「一撃必殺の示現流じげんりゅう。あえて受けてみたが意外に容易たやすい。所詮しょせんこんなものか」


 驚くガロウを他所にノーウェンは増々冷たく笑いながら、あの特徴的な二重の声で馬鹿にする。


「どいてろッ! オッサンッ!」


 ランチアが火薬を仕込んだジャベリンを2本同時に放つ。それを見たガロウは逆らわずに一旦下がり、刀を最上段まで振り上げる。

 身体をひねるだけでアッサリとジャベリンを回避するノーウェン。


(…………『櫻華おうか』!!)


 その一瞬のすき………いや、正直隙とは言いがたいが、ほんの一時ひとときでも避ける事に相手が意識を使ったと思い込み、一番得意の櫻華を見舞う。最上段からの振り下ろし………示現我狼の技は様々あれど、やはり示現流最初の技でありながら最大の奥義はこれなのだ。

 だが全身を振り絞る技、折れたあばらが筋肉に引っ張られて激痛が走る。


「またそれか、万策ばんさくきたか?」


 それすらもノーウェンは悠々(ゆうゆう)と刀で受けるが、刀……というか元・彼の爪だったものにヒビを入れるに至る。


「ほぅ…………やってくれるな。だがっ!」

「ぐわあぁ!!」


 ノーウェンは爪を折られつつも相変わらずの余裕顔で、ガロウの右肩を蹴り飛ばした。

 ガロウがりながら吹き飛んでいく。


「だから髭のオッサン、引っ込んでろっ!」

「一体何がしたい、小僧?」


 ランチアがさらに2本、加えてに2本、これで計6本のジャベリンを射出しゃしゅつしたことになる。しかしいずれも顔色一つ変えずにかわされてしまう。


 ランチアよりも宙に上がってを小馬鹿にした顔で見下すノーウェン。

 しかしランチアはそれには応じず、自分の飛ぶ向きを変えた。その真後ろには赤い彼女がランス(騎槍)を持って構えている。


「喰らいなッ! 赤の突撃ーィッ!」


 プリドールが赤いシャチの勢いを存分に使い、相手の心臓目掛けて得意のランスによる突貫とっかん敢行かんこうした。


 ランチアの背後に隠れてからの渾身こんしんの一撃。

 流石のノーウェンもこれは避けられないと感じたらしく、左手を前に突き出して、槍を素手で受け止める格好を取った。

 巨大なランスを手で受ける………その在り得ない反応に一瞬(ひる)むプリドールであったが、最早この勢いは止めようがない。


 プリドールのランスがノーウェンの左手を貫き、腕から左肩さえも引き裂くことに成功する。けれども相手は顔色一つ変えやしない。


「ほう、見事だ。こんな手傷を負ったのは150年ぶり………大した女だ」

(ば、馬鹿な! こんな傷を負って! 不死身なのか!?)


 これには会心の一撃を決めた筈のプリドールの方が驚愕きょうがくした。しかし直ぐに我へと返る。良いのだこれで………相手の動きは止まったのだから。


「良くやったぜッ! さあ、受けてみやがれ神とやらッ!」


 いつの間にかランチアはノーウェンの斜め上後方、10m程の位置にいた。加えて何やら両手をたくみに操る。


「………ムッ!?」

「喰らいやがれぇぇぇッ!!」


 急に身動きが取れなくなったことを感じるノーウェン。さらにかわした全てのジャベリンが再び彼を急襲するのだ。


 ノーウェンから血飛沫ちしぶきが上がる。6本の内、3本のジャベリンが右上腕部、両脚のももをそれぞれをつらぬいている。

 全身血まみれ…………無論、通常なら出血死、何ならショック死しても可笑しくない状態。

 だがなんと彼は生きているし、シレ顔で刺さったジャベリンを引き抜くのだ。良く戦いのシーンで重症なのに「かすり傷だ」などとうそぶくことがあるが、今のノーウェンは掠り傷どころか、蚊に刺されたような態度だ。


(な、何だとぉぉ!? 俺のジャベリンに付いたワイヤーは、あの野郎の全身を完全に縛り、身動き一つ出来ない状態ッ! しかも俺が狙ったのは心臓と頭! 要するに命を貰うに充分な一撃だった筈だッ!)


 プリドールと同様に致命打ちめいだを与えた筈のランチアの方が驚きで目を丸くする羽目におちいる。


「フフッ、この槍使いもなかなかにやってくれる……。これがあのフォウを苦しめたジャベリンとワイヤーによる攻撃か。しかもそのアイリスとやらで、速度も動きも尋常じんじょうではない。これはまさに初見殺しだな」

「こ、此奴、やっぱり動いてやがるッ!?」


 ランチアもプリドールも信じられない生物を見ている様で、思わず気分が悪くなってきた。


(これじゃあ不死を呼ぶテメエ自身が不死アンデッドじゃあねえかっ!?)


 異常な状況に思わず動きを止めてしまったランチアとプリドール。

 なれどこの光景を満身創痍まんしんそういでありながら次の一手に転じようとする男がいた。


「そうか………此奴こんわろは死ねぬ身体(じゃ)だけども(じゃっどん)………」

「………オッサン(ガロウ)?」


 そう………ランチアの言葉通り、またしてもガロウが決定的な何か見抜く。彼は「死ねぬ身体………」と確かに言った。死なないではなく死ねない………それではまるで死にたいのに死ねないようではないか。


おいの一撃必殺の示現、これだけ撃っ(せえ)手土産もない(なか)では、薩摩武士の名折れ(じゃ)っ!」


 そう勢いよく言い放つとガロウは、珍しく突きの体勢で手負いのノーウェンを強襲する。


「さあ、良く見とけよ(らんか)! これ(こい)が本物の示現我狼じげんがろう奥義『櫻島さくらじま』じゃぁぁぁっ!!」


 残り時間(わず)かを切ったアイリスによるガロウ渾身こんしんの突きは、ノーウェンの腹を貫いたかと思えば、突如とつじょ大爆発が起こり、二人の姿は煙の闇と消えた。

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