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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第8部『フォルテザ襲撃』編
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第3話 女魔道士のナイフに敗れる自由の爪

 ハイエルフであるベランドナが醜いダークエルフのオットーを圧倒し、雷神(カドル)呪文(スペル)(ほおむ)り去った。


 恐らくオットーはもう二度と屍術師(ネクロマンサー)によって呼び出されることはないであろう。


「………ガロウさん! アイリスを使った今の貴方と言えど、()()を一人で相手するのは無茶が過ぎる!」


 一方、「ノーウェンの方は俺が相手をする」と言ったガロウへ必死に(うった)えるドゥーウェン。


 エドナ村での戦いに()いてあのマーダですら頼っている暗黒神の力を持っているというのだから、これはド正論である。


「言うなドゥーウェン、判っている(わかっちょる)()()()じゃ荷が重()。おいっ、早く(いっき)出て来んかっ! 槍衆(やりしゅう)!」


 ガロウは刀を中段に構え、視線をノーウェンから外す事なく何者かを大声で呼びつけた。


「おいおいおいおいっ、俺は影からトドメを刺すのが好きなんだぜっ。大体なんだ? その()()ってのは? 随分な言い草じゃあねえの?」


「影からトドメって言うのは賛成出来んが、その物言いは確かに気に入らないねえ。ハッキリ言うが剣なんて、槍には到底(とうてい)及ばないのよ」


 物陰から槍を持った二人の騎士が現れた。一人は身につけている装備が全て青。けれど身体がやはり赤い輝きに包まれている。


 もう一人は何もかもが赤。身体も赤く輝いているので、いよいよ目立って仕方がない。


 この二人が並ぶ(さま)は、まるで日本の境内(けいだい)に立つ対を成した仁王像(におうぞう)の様であった。


 無論言うまでもなく青い鯱(ランチア)と、赤い鯱(プリドール)の二人組である。


「おぃ、(ひげ)のオッサン! お前、もうちょっとマシな力を望めよな。全く呆れるぜっ」


「同感だねぇー、無欲過ぎるのか、それとも想像力がないのか………いや、余程弟弟子(ローダ)にジゲン何とかとやらを使いこな(完コピ)されたのが悔しかったとみえるねぇ」


 二人揃って、ヤレヤレといった体で容赦なくガロウを罵倒(ばとう)する。


五月蠅い(うぜらしい)! (おい)は示現だけで良()! 何よりこれ(こい)ばかりは、ローダに負ける訳にはいかんっ! お前達(まんさあら)の方こそ、どうせ槍特化だろうが(やっどが)!」


「「当然だッ!」」


 ガロウの軽口(かるぐち)に動じることなく、二人の大きな声が(そろ)う。


「ただでさえ俺の無双(むそう)の槍がさらに(すご)みを増すッ!」

「最早この突貫(とっかん)、神にも止められんッ!」


 青い鯱(ランチア)がノーウェンにハルバードを向けて堂々と言い放つ。


 赤い鯱(プリドール)も同様にランスを向けて、声だけで相手を凌駕(りょうが)する迫力を見せる。


「おぅ、良い(良か)良い(良か)面構(つらがま)(じゃ)。そいじゃあ、あの()()のために一働きするぞ(すっど)!」


 ガロウは相変わらず()()()()見ていないのに()()()と言った。加えてこの場にいない二人(男女)を守る覚悟を語った。


 無言で後方から戦いの様子を全てを見ているルイスの影は、不気味な色合いを見せていた。


死霊(しりょう)を操る仮初の暗黒神(ノーウェン)、そして僕の扉の力の恩恵(おんけい)で力を増したフォウ。さあ、どうする白の戦士達とやら………)


 どうやらこの戦いは高見を決め込むつもりらしい。いや、自分の獲物(ローダとルシア)が出てくるのを待っているといった所かも知れない。


「やはり元8番目(オットー)では役不足であったな。ならばこれでどうだ」


 ノーウェンがただ悠々(ゆうゆう)と右手を真横に振る。すると何もなかった筈の彼の下の空間に巨大な黒い影が浮かび始めた。


「あ、アレは………まさか!?」


 その影と戦った覚えのあるプリドールが驚く。それは恐らく大切な同じラオの仲間達を失った絶望の記憶。


「やはりそうだ。青銅の鎧を(まと)う、重力の魔法を操る巨人(セッティン)!」


 プリドールの当時の記憶がさらに鮮明(せんめい)さを増す。勇猛果敢(ゆうもうかかん)に善戦こそしたが、結局の処リイナの禁術ストラーダ・インフィニータに頼りきってしまった相手。


「そういう事だ、久しいな。いつぞやの女騎槍(ランス)使い。だがなんだ? お前だけか? 他の兵士やあの女拳闘士(ルシア)はいないのか?」


 ヴァロウズ7番目の巨人セッティンは、辺りを見渡しながら敵の姿がやけに少ない事に少々苛立(いらだ)ちを覚える。


「ランチア、プリドール。お(まん)達は、その(そん)巨人の相手()任せた。(おい)は先に蝙蝠野郎(ノーウェン)やっているから(やっちょっで)、早く倒して加勢(かせい)()むぞ(んど)。『ガロウ・チュウマ』いざ参るっ!」


 相変わらずラオの二人組を見る事なく、ガロウは堂々と名乗りを上げて、正面から相手に迫る。


「ほぅ………我とサシで戦うというのか」


 ほくそ笑みながらノーウェンは、両手をガロウの方へとかざす。次々と爆炎の火球を繰り出してくる。


 その一つ一つが、フォウの爆炎の術(フィアンマ)と同じか、それ以上の大きさに見える。


示現(じげん)我狼(がろう)櫻打疾風(おうだしっぷう)』!」


 ガロウは片手で刀を握りしめたまま、まるで拳闘士の様に素早く左右の拳を繰り出す。真っ赤に輝く拳が、襲いかかる全ての火球を相殺(そうさい)する。


 ローダがトレノと戦った際に繰り出したものと似ているが、疾風(しっぷう)という言葉が追加されている。


 要は繰り出す拳の数がローダのそれより多いものらしい。


「ほう、暗黒神の火球を拳だけで………やってくれる」


「自分が神だから(やっで)、やはり詠唱なしで出来るのか(でくっとか)?  これ(こい)危うい(あぶなか)


 ノーウェンもガロウも互いの技を相殺(そうさい)された割に楽しそうな顔をする。


「では…………これならばどうだ?」

「『櫻道(おうどう)』乱れ斬りっ!」


 次は全く同じモーションで青白い輝きを繰り出すノーウェン。再び櫻道を連続で繰り出すガロウ、青白い輝きは冷気であった。


 恐らく過去にマーダがエドナ村で使った冷気の術と同様のものであろう。またもアッサリと相殺してみせるガロウ。


「おぃ、火炎を火炎で消したんだぞ(やっど)。氷に負ける道理がない(なか)っ」


「フッ、言いよる。まあ力量を測ったとでも思うがいい」


 馬鹿にしているとばかりにガロウは、鼻息荒く食ってかかる。相変わらず冷笑を絶やさないノーウェンである。


「そうか、だったら(じゃっどん)此処から(こっから)は本気(じゃ)。示現で守るとか(しょう)に合わん。次は(おい)から行くぞ(いっど)!」


「良いだろう、では第2ラウンドだ」

(…………ガロウさん、余裕ぶっているが、果たしてもつのか?)


 ガロウは楽しそうな顔に戻り、得意の蜻蛉(とんぼ)の構えをとった。


 ドゥーウェンが案じているのはアイリスの稼働時間だ。しかも相手はその昔、マーダと(あい)まみえた暗黒神と同等の相手なのだ。


「さっきからどこを見ているの? お前の相手はこの私だと言った筈よ」

「させんっ!」


 フォウが少々膨れながら次の魔法の用意をする。ベランドナ得意の弓の3連撃が詠唱を阻止(そし)しようと襲ってくる。


 だがフォウはコルテオの内の2本を飛ばしてこれを防ぐのである。魔導士が自身の身を物理攻撃から守る(すべ)を身につけた。|相手にとってこれは実に厄介(やっかい)だ。


(クッ! アレを何とかしないと此方の攻撃が通ら……ん?)


 このやり取りを見たドゥーウェンは何かに気がついた様だ。


「墜ちろっ!」


「効かんと言っている! マー・テロー、暗黒神(ヴァイロ)よ、その至高の力であの者に裁きの鉄槌(てっつい)を! 『神之蛇之一撃(アスピーデ)』ッ!」


 ドゥーウェンが3つの自由の爪(オルディネ)からビームを照射(しょうしゃ)する。しかしこれはまた見えないシールドが通す事を許さない。


 フォウの呪文(スペル)の詠唱が終わる。コルテオの4本が巨大な大蛇の頭の様な影を帯びて、物凄(ものすご)い勢いで飛び込んでくる。


(ま、まるでミサイルの様だ!)


 初見の術に動揺(どうよう)しつつも、再びオルディネを集め、シールドを展開しようとする。だが()()()()は急に軌道(きどう)を変えてきた。


「し、しまった!?」


 ドゥーウェンのさらなる動揺を他所(よそ)に、ミサイルは1つのオルディネ本体に集中攻撃を仕掛ける。

 炸裂音(さくれつおん)と共にオルディネは、へし折られてしまった。


「フフッ、狙い通りだ。そのオルディネとやらは、貴様の意志で自由に動く様だから先読みは難しい。しかし守りに入る瞬間は静止しなければならない」


「………クッ!」

「後は物理的にその強度を超える攻撃を叩き込むだけ。判ればなんて事ないわね」


 既に勝ったかの様にフォウが声高らかに笑う。ドゥーウェンは、実に面白くないといった顔をするのだ。

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