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ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第7部『4人……死闘の往きつく先にあるもの』編
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第16話 師の真実に青ざめる学者

 壮絶(そうぜつ)なカノン攻略(こうりゃく)戦が無事勝利に終わった。


 サイガンが言っていた「万が一命に関わりそうな事が…………」は誰にも訪れることはなく、転送(SEND)の術の逆を使い無事帰還(きかん)を果たすことが出来た。


 ただ一人レイという異物(違う者)が混じっていたことに、皆の帰りを待っていたサイガンは、(おどろ)かされる羽目(はめ)となった。



「もう、まだ起きないの? 随分(ずいぶん)と朝寝なのね」


 ルシアが彼氏(ローダ)の寝顔を(のぞ)きこんでいる。「もう……」と言ってる割にその顔は(おだ)やかに笑っている。


 起こさない様にそっと(ほお)を人差し指で(つつ)いてみる。


(全く………呑気(のんき)なものね)


 そう思いながら自分の下腹部を愛おしそうに()でてみる。


 あの初夜の翌朝、遅い朝食を取りに来た二人は、リイナに遅刻の理由を問い詰められた。ルシアが正直に打ち明けると、妹は顔を真っ赤にしてその場を後にした。


 リイナに話したが最後、二人の仲は(またた)く間に全員へ知れ渡ると思っていた。


 けれど意外にもこの件に関してリイナは、何故か口を開こう事はしなかった。理由は良く判らない。


 でも結果は同じであった。そもそもこの二人、その関係を隠そうとはせず、(むし)ろ普通に振舞(ふるま)った。


 それに周りの連中は、リイナを除けばこの二人より余程大人だ。若いのに今まで良く我慢(がまん)したものだと思われたらしい。


 何故かプリドールだけは少し面白くなさげ顔をしていたが、別に二人に対するやっかみという訳ではない。


 そんな次第で二人は公認の仲となった。ただまさかカノン攻略の前に、その先(妊娠)まで進むとは想像出来ていなかった。


 ローダが突然、寝ているルシアを抱き締めてきた。


「何よ、貴方いつから起きてたの?」

「だってさ……」


 文句を言う割には抵抗をしないルシア。対するローダが子供のように口籠(くちごも)る。


「ん?」

(いや、可愛んだが……)


 そのままルシアは、ローダの返答を黙って待ってみる。


「こ、この間のお前、()()()()()から……」


 実に小さく歯切れの悪い声で、ローダは良く判らない事を言う。


(こ、この間、何時(いつ)? 一体何の話?)


 ルシアには思い当たる(ふし)が在り過ぎるらしく要領(ようりょう)()ない。取り合えずとぼけたフリをする。


「いや、本当に俺、どうにかなってしまうかと……」


(えっ? えっ? えっ?)


「あ、あれは……アハハハッ、流石にちょっと調子に乗り過ぎ……」

「………はっ?」


 慌てて弁明(べんめい)をしようとしたルシア。ローダが驚きでそれを(さえぎ)る。


「へ?」


「………いや、だからこの間(カノン)の戦闘でルシア、ボロボロだったから1対1(タイマン)勝負だって言い切ったとはいえ、流石にどうにかなりそうだったって話なんだけど……」


 どうやらローダはカノンでのティンとルシアの戦闘を回想(かいそう)していたらしい。


 一方全然違う事を思い返していたルシア。真っ赤にした顔を、枕に()めて(かく)そうと躍起(やっき)になる。


「ルシアが負けるなんて思っちゃいない………でも幾度(いくど)も危ない目にあってたし……。万が一の事があったら、もしお前がいなくなったら俺……」


 ローダが再びルシアを抱き締める手に力を込めた。


(ローダ………貴方ったらやっぱり可愛い)


 ルシアはローダの腕をなるべく優しく振り解くと、ベッドの上に胡坐(あぐら)をかいた。そして微笑みながら愛しい彼氏の頭を自分の豊満な胸に抱き寄せる。


「大丈夫、私は決していなくならないから。そして貴方も死なない。私のあの時の声、聞こえたでしょ?」


「あ、嗚呼………とにかく無我夢中(むがむちゅう)だったから一体何が……って感じだったけど確かに聞いた。そして心穏やかなまま、まるでアイリス……違うな、それ以上の力が出せた気がするんだ」


 寝ぐせだらけの頭を愛おしそうに幾度(いくど)も撫でる。「あの時の声………」とは語るまでもなく、緑色の輝きが運んだルシアの想いだ。


 ローダも確かに感じていた不思議な力。アレがなかったら自分はトレノに敗北し、今頃黄泉(よみ)の国の住人であったかも知れない。


 サイガン達に解析(かいせき)を依頼はしている。だが未知(みち)領域(りょういき)が多過ぎるのか、明確な解答を未だ得られていない。


 それはそれとしてローダも(しばら)くは、大人しくその幸せ(胸の内)(ひた)っていた。しかしもう()()()()()()が欲しくなる。


 不意に彼女の両肩を握り、そのまま体重を押しつけて倒し込む。未だに彼は、()()()()()()()()の存在を知らされていない。


「もう、初心(うぶ)だった騎士様も、随分と生意気(なまいき)な事をする様になったものね」


 ルシアが顔を赤らめながら彼の胸の中で文句を言う。けれど相変わらず口だけで抵抗はしない。


「でも、嫌いじゃない?」

「だ、黙りなさい……あっ…コラッ……」


 ルシアの()()は、少し強引に彼女の唇を(うば)うのであった。


 ◇


 一方、フォルテザの砦、最下層(さいかそう)牢屋部屋(ろうやべや)では、サイガンがドゥーウェンに新たな秘密を明かしていた。


「な、何ですって!? で、ではルシアさんは…………」

「うむ、そういう事だ。これがあの時の力(緑色の輝き)の真実らしい」


 実の処、サイガンには既にそれなりの解答が得られていた。それが既にルシアには語られていたらしい。


 驚いて顔を(くも)らせるドゥーウェンを他所(よそ)に、サイガンの方は真顔である。


「か、彼女(ルシア)はその事を………そしてローダ君は?」

「無論、()は知っている。そして()にはまだ知らせていない」


 自分が汗をかいている事に気づいていないドゥーウェン。どう今の気持ちを言い表せば良いか判らぬのだが、身体の方は心拍値(しんぱくち)が上昇し明らかに狼狽(うろた)えている。


「そ、そんな!? (いく)ら何でも酷過ぎやしないですか?」


 これまでドゥーウェンは、尊敬する先生(サイガン)のする事に対して、驚きこそあっても反発は皆無(かいむ)であった。


 (しか)し今初めて、その自らの(かせ)(やぶ)りたくなってきた。


 するとサイガンは、そんな弟子の気持ちを()んだかの様に突然深々と頭を下げた。


「………先生!?」


「済まなんだ………とにかく今言える事は、この老いぼれを信じて欲しい。ただそれだけだ」


 (こうべ)()れたままの姿勢で告げるサイガン。


 土下座(どげざ)とは相手に有無を言わせず、自分の意見を押し通す一種の()()であるという話をドゥーウェンは、思い出していた。


 ◇


「フフッ……そうか、あの力は………やはり()()(かぎ)だった」


 誰にも聞こえない筈の会話を遠く離れたフォルデノ城中で聴いていた男がいた。マーダ………いや、今はルイス・ファルムーンである。


「ルイス……様?」


 相変わらず(かたわ)らにいるヴァロウズ4番目の女魔導士、フォウが彼の疑問に気づく。ルイスという呼び名にまだ慣れていない。


「フォウよ、いけるかい? 今すぐにだ」

「わ、私ですか?」


 ルイスは質問を質問で返しながら突然立ち上がる。自身の左肩に触れると何処(どこ)からともなく、黒い鎧に黒いマントが(おお)い、いつもの(よそお)いとなった。


 一方フォウの方は、相変(あいか)わらずの全裸であり、準備をさせて欲しいといった(てい)で慌てるのだが、そんな彼女にルイスが右手をかざした。


 フォウの服装もあっという間に、いつもの黒づくめになった。加えて(ひじ)(ひざ)、手首、首回り、胸には金色(こんじき)防御兵装(ぼうぎょへいそう)らしきものが追加されている。


 さらに魔法の杖の代わりに腰にはレイピアと、両脚には金色の6本のナイフが革製の(さや)に納まっている。


 それらには上級魔導士であるフォウにすら解読出来ない言語が(きざ)まれていた。

 ご丁寧に紫の紅(ルージュ)とアイシャドー、ネイルすら塗ってある。


 瞬時の出来事にフォウは戸惑(とまど)ったが、直ぐ主の前に(ひざまづ)く。


「み、御心(みこころ)のままに………」


 準備さえ整っていればルイスの意志がフォウの意志だ。そこにもう迷いは在り得ない。


「そして一番目(ノーウェン)よ。君もだよ」


 ルイスが誰もいない所に向かって呼び掛ける。すると壁の装飾(そうしょく)が変化して、人らしき姿が浮かび上がる。


「この城で迎え撃つ算段(さんだん)だったのでは?」


 不思議な声……まるで二人の者が同時に喋っているかのようだ。背中には蝙蝠(こうもり)の様な赤い羽。


 黒のシルクハットを(かぶ)り、タキシードを羽織(はお)る。両目を赤い仮面で(おお)っている。


 全ての爪が指と同じ位の長さに鋭く伸びている。背は高いがその線は細く、一体何を持ってして戦うのか得体(えたい)が知れない。


(あ、あれがヴァロウズ1番目の実力者『ノーウェン』か。何だあのふざけた格好は? まるで道化(ピエロ)ではないか?)


 フォウの第一印象はこんな感じ。好き嫌いで言えば嫌い、嫌悪の表情で初見のナンバー1を一瞥(いちべつ)した。


「状況が変わった、アレを奪いに行く。これ以上、アレと弟を捨て置く事は出来ないよ」


 今までエドナ村での戦い以降、自らは決して動かず、サイガンの居所が知れた時にも泳がすと言ったルイス。


 いや、あの時はまだマーダの意識の方が色濃かったかも知れないが。

 普段は全てを余裕で見下ろす男であるが、珍しくその声に(とげ)がある。


「恐ろしい()()()様、委細承知(いさいしょうち)致しました」


 ノーウェンは右手で顔を隠しつつ、昔の名(マーダ)で返した。ルイスは気に留める様子もない。


「往くっ!」


 ルイスは一言だけ告げると、何の詠唱もなしに自らを含めた三人を光の矢に変えて、天へと舞い上がった。

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