表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローダ 最初の扉を開く青年  作者: 狼駄
第1部『最悪の再会』編
1/245

プロローグ『扉』

『扉』


 人は皆、それぞれ心の内に扉を持っている。


 その形状は、実に人の数だけ存在する。

 

 ろくに鍵もかけずに開けっ放しにしている者。

 

 鋼の様に頑強(がんきょう)で、決して開こうとしない者。


 中には、牢屋の様な鉄格子(てつごうし)で、外から開けて貰うのを待っている(くせ)に、誰の目にもその心が()けて見えてしまうという、実に特殊(とくしゅ)な物も存在する。


 しかも人はさらに自分の中に扉を増やしてゆく。

 

 別れた恋人との思い出を封じ込めた部屋の扉。

 

 自らのけじめをつけるべく、これまでの思い出を詰め込んで、鍵をかけた部屋の扉。


 だが時にそんな部屋の扉を開け放ち、思い返してみたりする。


 どんな形であれ、人は自分を保ち、時には誰かに打ち明けるために、ただの壁ではなく、そこに扉を造るのだ。


 これは神が人間という実に(うつ)ろな生き物を創造した時から存在する。


 この物語は無謀(むぼう)にも神に異を唱え、その扉を壊そうとした、とある老人の奇想天外(きそうてんがい)な人生と、()しくもその老人の夢を叶える役目を(にな)う青年。


 さらにその仲間達による冒険譚(ぼうけんたん)である。


 ◇


 とある王国の城内にある兵舎。時は深夜、日付が変わって既に2時間が過ぎている。

 兵舎の中の(ほとん)どの兵達は、夢の中であった。


 その建物の裏側で息を殺しながら時を待つ、頭から黒いローブを羽織(はお)った女がいた。


 顔を隠せてはいるものの、白い()んだ顔と美しい足だけは隠せない。


 時を待つ者は、他にも城壁の通路に二人。一人は女と同様に黒いローブで(ひそ)んでいたが、剣の(つか)(さや)が少々目立っている。


 もう一人は身体が大き過ぎて、およそ隠密(おんみつ)には向かない。取り合えず、見張りの兵士から死角になる所で、ふんぞり返っていた。


 そして城内の庭園の真ん中には、両手持ちの大剣(グレートソード)を地面に突き刺し、不敵な笑みを浮かべ、漆黒(しっこく)の鎧をまとった剣士が堂々と立っていた。


 その後ろには立派な庭木が二本、植えられている。

 左の木の裏には顔色まで漆黒の男。特徴的な耳がローブからはみ出している。


 右の木の裏側にはローブを羽織(はお)らず、銀色の髪を(さら)している者がいた。


 隠れるなんて意味ねぇよと言わんばかりの態度である。


 黒い剣士がグレートソードを高々と掲げる。刀身が月の明かりで(あや)しげに輝いた。


 時は来た。兵舎の裏側では、轟音(ごうおん)と共に火球が爆発した。兵舎は見るも無惨(むざん)な姿と化した。中にいた者達の生死は考える迄もないであろう。


 城壁の通路にいた剣士はローブを脱ぎ捨てて、一目散に見張りの兵士に駆け寄り抜刀した。見張りの兵士は、声も出せずに首と胴が泣き別れた。


 もう一人の戦士は待ちかねた! とばかりに跳躍して見張り小屋の上から飛び蹴りをいれた。


 当然小屋が壊れる激しい音が辺りに響く。中にいた兵士二人は、叫ぶ間もなく戦士の拳で頭を吹き飛ばされて絶命した。


 黒い男はその目から赤い光線を全周囲に放った。当たるもの全てに風穴を空けた。


 右の木に隠れていた者は背負っていたボウガンを構えて、即座に鉄球を放った。鉄球は、赤い光線が穿(うが)った穴を容易にすり抜ける。


 そして寝所でワインを飲んでいた王の眉間(みけん)を見事に撃ち抜いた。


 黒い漆黒の夜の中、おぞましい『闇』の進撃が始まった。


 ◇


 木こりの町は、黒い(よそお)いの連中の襲撃を受けていた。ゴブリンもコボルトもオークも、そしてそれらを従えている剣士と戦士も黒い格好をしている。


 ゴブリン達が町の至る所に火を放つ。


 町の戦士達、大抵の得物は斧であった。それは武器というより、普段の仕事道具(木こり道具)を持ち出した感じである。


 山の男らしく屈強(くっきょう)な者が多く、ゴブリンやコボルト達を蹴散(けち)らしていく。


 白い司祭姿の少女が神に祈りを捧げると、戦士達の身体が光を帯びた。力や心が高揚(こうよう)する祝福の奇跡だ。


 なれどそんな強き男達に飛びかかる背の低い剣士。彼は男達の首やら腕やらを両断しながら、しかも彼らの身体を踏み台にして次々と墜としていく。


 身体が小さい上に童顔(どうがん)なので、まるで子供に大人が、殺されていくような異様さがあった。


 一方、白い鎧と、槍の様に柄の長い斧を持った中年の男は、屈強な女戦士を相手にしていた。


 女戦士は武器と言える得物を持ってはいなかった。けれどその拳は、身を隠そうとする石の壁を難なく粉砕(ふんさい)し、その蹴りはとても鋭く、仲間の男達は、頭や肩を潰されていくのであった。


 ◇


 髭面(ひげづら)の男は、およそ2000の軍勢の中にいた。此方は山の斜面の上に陣を構えている。よって遠くまで良く見渡せる。


 此方に迫ってくる黒い塊の敵は、こちらの10分の1にも満たない程の少数にしか見えなかった。


 だが悠々(ゆうゆう)と向かってくるのが、とても不気味に思えた。


 その中でも特に陣の中央で、黒い馬に(またが)る剣士が放つ()()、戦に熟れた者には判る異臭に満ち(あふ)れていた。


 髭面の男は思う。こいつはやべぇかも知れねぇ……。


 ◇


 若い女は一人きり森の中で、武道の型をひたすらに続けていた。


 その美しい容姿(ようし)から繰り出すものとは到底思えない鋭さと、だからこそ飛び散る汗すら美しいと感じる異彩(いさい)さを放っていた。


 その型は実に多彩で、中には飛び膝蹴りや、後方への回し蹴りといった派手な動きも存在した。


 深い緑の中で美しい女性が舞うが(ごと)きその(さま)は、実に華麗(かれい)でこの世で一番美しいとされる亜人「ハイエルフ」と見間違う者もいるかもしれない。


 ひとしきりの型を終えて小川に足を浸し疲れを(いや)していると、1羽のカワセミが彼女の肩の上に安らぎを望んだ。


 綺麗(きれい)な鳥と(たわむ)れる森の女性。まるで一枚の絵画の様であった。


 ◇


 青年は養父に何度も()びた。養母はしきりに心配したが、決心は変わらない事を伝え、やはり結局(こうべ)()れるしかなかった。


 青銅の鎧、兄の残した古びた片手持ちの剣(ロングソード)を腰に差し、そして小柄(こがら)なリュックを背負っている。


 彼の住む城下町は相変わらずの(にぎ)わいであるが、今日自分は、この喧噪(けんそう)を後にするのだ。


 ふと店のガラスに映った姿と目が合った。自分でいうのも悲しいが、何だか頼りないなあと思ってしまう。


 今ならまだ引き返せる、そんな弱気に引っ張られそうになる。だけど街を出てしまいさえすれば、諦めもつくだろう。


 けれど彼にとって失われた兄は、決して諦めきれない存在なのだ。いつになるか(さだ)かでないが、必ず兄と共に再びこの街に…父と母の元へ戻ろう。


 青年は誓いを立てて、足早に住み慣れた街を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ