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第九話 チーズ大好きです!

 車の免許は持っていないが、今まで生きてきた中で得た知識と経験を燃料に、アクセル全開ベタ踏みよろしく頭をフル回転させていた。


 ――どこにいけばいいんだ!?


 学校近辺にあるファミレスになら、上条や大澤とご飯を食べに行くことがある。だが、もっといいお店はないものか!? 考えろ! 考えるんだ! 自分史上もっともおしゃれで雰囲気が良くて料理の味もまともなお店がないか考えるんだ!

 なにせいま、隣にはあの本多莉々奈さんがいる。そう、あの莉々奈ちゃんだ。間違いなく!


 学校の下駄箱で彼女に突如食事に誘われた僕は、断る理由などあるはずもなく勢いに任せて二つ返事でOKをした。

 すると彼女は、


「よかった……」


 と、少しほっとした表情でそう言ったのがやけに印象的だった。

 そしていまその彼女と二人並んで最寄り駅近くにある繁華街に向かって歩いている。

 姿勢良くコツコツと踵の音を立てながら歩く彼女をちらり覗き見る。

 帰宅時だというのにシワのない白シャツがよく似合っていた。


 今どきの女子高校生らしく膝上丈のスカートからは、曇りなく透き通る白い脚が伸びていた。

 彼女の身長は178cmの僕からみて10cmほどは低くく見えた。ざっくりだが165~170cmというところだろう。

 遠目で見ている限りではもっと高身長に思えていたが、それは彼女の姿勢が良いせいかもしれない。

 僕の視線に気づいた彼女と視線が交錯こうさくした。

 大人びた雰囲気もあり、それでいて一見あどけない少女のようなほほ笑みを彼女は携えていた。以前に感じた違和感はいまの彼女からは感じない。


「どこにいきましょう。成宮君のおすすめのお店、ありますか?」


 まずは僕の名前を知っていてくれたことに安堵した。もしかしたら人違いで誘われたのでは? とも考えていた。とりあえずその心配はしなくてよさそうだ。

 同級生である僕に敬語で話す彼女だが、先ほどまでとは違い気さくな雰囲気で話しかけてくれている。

 その彼女の気さくさとは真逆に、僕の頭の中はどこのお店に行くべきか葛藤が続いていた。

 女の子と一緒に行くような、ましてや女の子におすすめできるお店なんて僕の引き出しにはどこにもない……。


「えっと……。何か食べたいものとか……ある?」


 悩んだ末にとりあえずのつなぎ言葉を入れて時間稼ぎをする。

 なんとも覇気のない声音だと自分でも思った。今の僕はおびえた小鹿のように彼女から見られているのではないかと不安になった。

 もちろん、答えをもらったところでなんの解決にもなりはしない。僕の中にあるお店のレパートリーはとても少ないのだから。


「なんでも大丈夫です。私、好き嫌いないんです」


 胸の前で軽く握りこぶしを作り得意げに答える彼女はとても可愛らしい笑顔をみせた。

 彼女は肩に掛かった髪をさっと背に払った。

 さらりと揺れた黒髪から、ふわりと香りが届いた。森林の中の木の匂いを連想させる優しい香りだった。

 その香りが鼻腔をくすぐり、不思議と落ち着いた気持ちになる。そしてなぜだか懐かしい匂いだと感じた。

 ……有名ブランドの香水かなにかだろうか?


「あはは……。そ、それは助かるな。じゃ、僕が勝手に選んじゃうね」


 心の弱さ。懐の浅さ。経験値のなさ。全てを棚に上げ大人の男らしい包容力を見せるべく発したその言葉とは裏腹に、どこかの引き出しに何かしら入っていないものかと必死に考えたつづける。

 挙げ句、やっと見つけたのは以前に一度、学校帰りに山中先生に連れて行ってもらったお店だった。


  記憶に間違いがなければ、高校生同士で入っても大丈夫なお店のはずだ。そして何よりもファミレスよりはデートに向いていそうなお店だったと記憶している。

 僕の舌にはまったくもって期待はできないが、料理の味も美味しかった、と思う。


「はい、楽しみです」


 葛藤を繰り広げていた僕の脳裏のあわただしさを和ますように、彼女は長いまつげを携えた目を細め、破顔した。

 お店につくまでの間、彼女は昨今のニュースや時事的なネタを振って話をつないでくれた。たぶん緊張している僕を見透かし、気遣ってくれているのだ。


 繁華街の明かりが煌々と昼のごとく照らす大通りを進み、ビルとビルの間に伸びる小道へ入った。大人が5名も横に並べば通せんぼできそうなその通りを20mも進むと、目的の店の看板が見えてきた。

 店名は『チーズ&カフェ』

 その看板をみた彼女は両手の指をあわせ、はじける笑顔をみせた。


「わぁ、私、チーズ大好きです!」


 彼女はその美貌故に少し冷く見られることもあるかもしれない。

 だが、彼女が笑顔を咲かせるとその雰囲気は一転、心に安心を覚えるというと大げさかもしれないが、その笑顔からはやすらぎを感じるものがある。

 その笑顔に僕は、以前とは違う胸の高鳴りを感じ始めていた。


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