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治療2. 容疑者Aの滅身

「宿屋に一泊しただけで瀕死の重傷が治るとか、何の冗談だよ?」


前の章で青葉容疑者の厨二病について述べたが、おそらく彼に治療は必要あるまい。

といっても治しようがないわけでも、どうせ死刑になるからでもない。

全身の90%に及ぶ大火傷の『激痛』が、彼を現実に引き戻しているからだ。


全身黒焦げ。

最先端の医療技術をもってしても助かるかわからない重体。

死の淵に沈む瀬戸際において、呑気に空想に浸っている余裕はない。


火傷。

怪我。

病気。

飢餓。


それらの『痛み』は、否応なしに過酷な現実を突きつける。

差し迫った病苦や飢えは、妄想に逃避することを許さない。

そして、自分がいつ死んでも不思議ではない、ちっぽけな存在であることを教えてくれる。


ギャグ漫画であれば、爆発に巻き込まれてもパンチパーマになるだけで済む。

傷や毒は治癒魔法で治るし、場合によっては蘇生や転生すら可能だ。


一方で、この残酷な現実にはホイミすら存在しない。

浅い切り傷を消毒して絆創膏を貼って安静にしても、皮膚が再生するのは約2週間後。

風邪を直接治す薬さえ開発されていないのが現状だ。


それなのに、健康な者は自分が苦しむ姿が想像できない。

「人間はいつか必ず死ぬ」

と知っているはずなのに、まるで永遠に生きられるかのように振る舞っている。

貴方にも心当たりがあるのではないだろうか?


常に交通事故やガンを考えて生きるわけにもいかないが、ヒキニートやそれに近い者の危機意識はあまりにも低すぎる。

外敵や病原菌から隔離された室内に入り浸っていると、自分がいつでも淘汰されうる弱者であることを忘れてしまう。

本当の私達は異世界のスライムどころか、マラリアを宿した蚊にすら簡単に殺されてしまうのに。


安全な環境で調子に乗った者は、たやすく自己と『不死身のヒーロー』を同一視する。

追放された国に闇の力で復讐した勇者のように、自分も身勝手な制裁ができると思い込んでしまう。

それでいて、相手に反撃されること、自身も傷つくことは全く想定できない。


かの放火犯も生活保護を受給して暮らしていたと聞く。

国家による安心安全な生活の保障は、必ずしも良い影響を与えるわけではないのだろう。


人類の先祖は何万年も自然の脅威と戦ってきており、そのDNAは間違いなく私達にも受け継がれている。

歴史的に見れば飢餓や病気に晒されるのが当たり前で、むしろそういった危険がない現代の先進国こそ異常と言える。


もし貴方も平和ボケしていると感じたなら、自発的に小さなリスクを取ってみることを勧める。

わざと怪我や病気になるのが難しい場合は、いわゆる『プチ断食』をしてみればいい。

1日でも半日でもいいから、水だけで過ごしてみよう。


しばらく空腹を感じていれば、自分がちょっと食事を抜くだけで倒れてしまう弱い存在だと実感できる。

他人と自分を比べる余裕もなくなるから、劣等感や被害者意識に苛まれることもないだろう。

わざわざ火災に巻き込まれて、地獄の責め苦を味わう必要はない。


「須らく常に病苦の時を思ふべし」

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