治療1. 君の心臓をたべたい
「36.89℃の熱情」
中二病を卒業する最も効果的な方法は、『肉体的接触』を持つことだろう。
どのように接触するかは・・・
・・・まぁアレだ。
意中の異性と手をつないで遊園地を回り、デートの後にホテルでイチャコラすればいい。
最も効果的であるとともに、最も難しい方法な気もするが。
そもそも彼女持ちや妻帯者は、まず中二病にかからない。
リアルの生活が充実しているし、頻繁に人と触れ合うことで『生身』の人間を体感しているからだ。
人体には体温があるが、創作にはない。
人体には匂いがあるが、創作にはない。
胸に手を当てれば心臓の鼓動が聞こえるが、二次元の絵に触れたところで何も感じられない。
一休さんが殿様に頼んでも虎は屏風から出てこないし、AIのサーティはディスプレイの世界から出てこない。
私達は自分の身体に対してはひどく鈍感だ。
体温も匂いも鼓動もあるはずなのに、普段は意識することがない。
人が人であることを本当の意味で知るためには、他人の体に触れて動悸を確かめるしかない。
恋愛漫画のヒロインでもテレビのアイドルでもなく、直接出会ってそれを食らうしかない。
髪に触れ、肌に触れ、粘膜に触れよ。
肉の柔らかさと骨の硬さ、その重みと熱量を感じよ。
そうすれば、相手が『人間』であることが理解できる。
そして対となる自分もまた、『人間』であることが理解できる。
保険の教科書や画面に移った美少女では、到底学ぶことができない。
1970年頃から日本の出生数は減少の一途をたどり、同時に高齢の中二病も増加してきた。
卵が先か鶏が先かはわからないが、接触機会の減少が人の認識を歪めてきたのは想像に難くない。
さらにコロナ禍で他人との距離が開いた状態が続けば、私達はどんどん現実を忘れていくのだろう。
恋愛にせよ仕事にせよスポーツにせよ、人は他者と比較しなければ自己を規定できない。
全力でぶつかり合わなければ、相手を同胞と認めることはできない。
安全な檻から出て手を差し出す、勇気を持たなければならない。
「人は独りでは幸せになれない」