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末期症状. 『無敵の人』

「むしゃくしゃしてやった。今は反省している」


いわゆる『無敵の人』によって、京都アニメーションのスタジオが炎に包まれたのは記憶に新しい。

小説の落選とパクり疑惑を逆恨みした青葉容疑者が押し入り、放火で36名の尊い命が失われた。


秋葉原の無差別殺人事件や、相模原の障害者殺傷事件も同様だ。

彼等に『共同体感覚』があれば、同胞を手にかけることなどできなかったはず。

『失うものが何も無い人間』は、いともたやすく社会を破壊する。


創作物に描かれた美しい世界に魅了された者は、いつか自分もその場所に立ちたいと願う。

異世界を目指す者が筆を執り、小説や漫画の選考に挑むのは自然な流れだろう。


それ自体は何も悪くない。

むしろ一つの小説を書き切って応募した行動力は尊敬に値する。

エセ賢者なんて、この駄文を書くのにも四苦八苦しているというのに・・・


しかし、この世界は極めて狭き門。

入賞するのは一握りの秀才だけ。

「小説家になろう」やブログ、YoutubeもPVを集めるのは上位数%の名作だけで、他はろくに見てもらうこともできない。

上場企業に就職するよりも、著作物で成功する方が遥かに難しい。


有名会社の選考は、暗闇の中で見つけた一筋の光。

それを断ち切られた応募者は、間違いなく会社を恨む。

自身を『復讐者』と定義し、理解を示さない世間を『仇』と認識する。

他人からみれば逆恨みでも、彼の中には十分な大義があった。


おそらく「小説のパクり」は、そんなに重要ではなかった。

京アニには無数の作品があるのだから、似たようなシチュエーションや台詞はいくらでもある。

自分が好きなジャンル(=創作したジャンル)のアニメを見続ければ、意識せずとも悪意をぶつけられる個所は見つけられるだろう。


別にパクりでなくても、『復讐の口実』さえ用意できればいい。

毎日たくさんの事件がニュースで報道されているが、犯罪の動機は大概たわいのないものだ。

凶行の本当の原因は表面的な動機ではなく、社会への不満や自身の劣等感にある。


無論、不満や劣等コンプレックスを抱えた者が全員犯罪に走るわけではない。

「漫画やアニメは犯罪者を作るから禁止しろ!」

なんていうわけでもない。


だが、私達が同じ種を持っているのは否定できない。

最近の人気作品を見ても、青葉と同等かそれ以上の凶行を成している者さえいる。

室内でのガソリン放火は、ずっと前にひぐらしの少女が行っている。


・麻薬漬けにされた報復に強姦と殺戮を繰り返す回復術士

・自分を差別した王族をクズやアバズレと命名する盾の勇者

・闇の力で国ごと滅亡させていく、かつての英雄


世間から見向きもされなくなった者にとって、復讐より甘美なものはない。

今の貴方が正気であっても、いずれ孤立を深めて被害者意識に囚われれば、いつでも闇に堕ちる危険性はある。


『最強の転生者』も『無敵の人』も、現代の身分を捨てて傍若無人に振る舞うことに違いはない。

一寸先が闇であることを忘れてはいけない。


「創作が人をダメにするんじゃない。

人間は元々ダメだということを教えてくれる」

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