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治療3. エクスカリバー(クワ)

「岩に突き立てられた伝説のクワ。

これを引き抜いた勇者は悪を打ち倒し、この国の王として君臨することになる」


異世界ファンタジーの定番武器と言えば、なんといっても『刀剣】に限る。

西洋剣や日本刀など種類は様々だが、長剣を振り回して無双する展開はバトル漫画の定番だ。


しかし、戦国時代ならまだしも、現代日本で刀剣を扱うことはできない。

真剣を所持するだけで銃刀法違反。

購入して遊ぶとしても、日光土産の木刀がせいぜい。

しかも自宅や道場以外で振ろうものなら、たちまち通報されてしまう始末。

世知辛い世の中になったものだ。


そんな社会にがっかりしている中二病男子に勧めたいのは『クワ(鍬)』。

合法的に扱えながら、確かな重量を感じる長物だ。

江戸時代の農民が実際に一揆で用いたので、その殺傷力も折り紙つきだ。


刀を振り回していたらすぐに通報されて御用だが、庭をクワで耕して捕まることはない。

無職ニートがいきなりガーデニングを始めたら親は驚くかもしれないが、伸びた雑草を刈ってくれて悪い気はしないだろう。


適当な通販サイトを使えば、ほんの数千円で農具を買える。

クワや鎌、鋤など、耕作する土地に合った道具をいくつか購入しておこう。

耕すのは自宅の庭、アパートなどで庭がなければ近所の土地を借りてもいい。


装備を整えて外に出たら、そこから貴方の冒険が始まる。

自ら武器を持って地面に振り下ろせば、最新のオープンワールドRPG以上のリアリティが体験できる。

なにせ現実以上にリアルなものなど存在しないのだから。


野草の生い茂った野原にクワを打ちつければ、貴方は否応なしに『命を奪う』実感を得る。

そこに生えている草木はもちろん、周囲に存在する無数の生物を殺害することになるからだ。


シバ、スギナ、ミミズ、アリ、ダンゴムシ、オケラ・・・

クワに力を込めて土をめくり上げるたびに、たくさんの原住民が吹き飛ばされていく。

その死骸は堆肥となり、次に芽生えた命を育む礎となる。


十分土が柔らかくなったら、そこに穀物や苗木を植えよう。

できればサツマイモやブルベリーなど、あまり手間をかけずに食べられるものがいい。

自力で土地を征服して、そこから獲得した食料を口にした時、貴方はこの上ない生の実感を得ることだろう。


勇者ロトは剣で竜王を倒してアレフガルドに国を建てたが、それは彼の物語でしかない。

そのゲームをプレイした貴方が王になったわけではない。

いくら強い武器を揃えてモンスターを狩ったとしても、経験値やゴールドは得られない。

親や友人に感謝されることも、地位が向上することもない。

だが、現実で行った草刈りは貴方の筋肉を鍛え上げ、耕した畑を本物の財産にする。


人が剣と魔法の異世界冒険に憧れるのは、かつて私達の先祖がそれを成し遂げてきたからだ。

アフリカで発祥した人類は故郷に留まることなく世界中に広がり、斧や火を用いてフロンティアを開拓してきた。

(剣=斧、魔法=火)

彼らの遺伝子を受け継いだ私達が武器を持って未開拓地に向かおうとするのは、人類の歴史からすれば当然のことと言える。


異世界は、宇宙と並ぶ最高のフロンティア。

他人に手を付けられていない、未知の動植物が溢れる場所を、血気盛んな若者がどうして求めずにいられるだろうか?

もしもアーサーやアレキサンダー、織田信長がそこに行ったとしたら、間違いなく征服しようとするだろう。

若者はみんなドリフターになって、エルフやドワーフ、エンズと戦いたいのだ。


しかしながら、異世界は空想の中にしか存在しない。

パラレルワールドの実在が科学的に確かめられたとしても、そこに移動する手段もなければその環境で人類が生存できる保証もない。

実在しない裏世界で冒険することはできないし、現実世界で凶器を振り回してもテロリストになり果てるだけ。


貴方が本当に成功したければ、自分に合った『場所』と『武器』を選択しなければならない。

農民がクワで生計を立てたように、得意な産業や分野を選んで攻略を考えなければいけない。


・漁師と投網

・料理人と包丁

・小説家とペン

・SEとプログラミング

・トレーダーとチャート

・弁護士と六法全書

・鬼に金棒(?)


専門家は皆、自分が得意とする分野で最適な武器を選択して戦い続けている。

本当の冒険は異世界ではなく、この資本主義の世界にあるのだ。


貴方の戦場はどこで、自慢の獲物は何だろうか?

どうかゲームの神に与えられた伝説の剣で満足するのではなく、自前のクワを振って地球の狩場に果敢に挑んでほしい。


「異世界が実在しないなら、ここを異世界にしよう」

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