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トール家の昼食

 最低限の食料は買い置きがあるので、それで昼食にするか。

 台所に立って適当な食材をひょいひょいと取り出す。


 パンとベーコンと……あとは卵でいいか。

 卵食っとけば栄養つくだろ。

 フライパンを引っ越しの荷物から引っ張り出し、コンロの上に置いて火にかける。


 このコンロは、この世界に転生して最初に手に入れた家で作ったものだ。

 もちろんこの世界には都市ガスも、むやみに尻を振る青いクマも存在しない。

 俺が決められた場所に魔力を注ぐと火がつく用になっている。

 コンロの形にしたのは、単純に使いやすそうだったからだ。


「……これ、なんですか?」


 後ろからルナが覗きながら聞いてくる。


「あー……かまどみたいなもんだ。俺の魔力で動いてる」


「お兄さん、魔法つかえるんですか?」


「まあ多少な」


 仕事じゃバリバリ使ってたしな。

 これからはさほど派手なもん使うことは無いだろうけど。


「……あの」


「ん?」


「お兄さん、お名前、なんですか?」


 ……そういや言ってなかった。

 家につれてきて、風呂に入れて、服着せるまでやってんのにな。

 よくこいつも今まで聞いてこなかったもんだよ。


「トールだ」


「えと、トール、様ですか?」


 トール『様』て。

 別に奴隷とか召使いのつもりで家につれてきたわけじゃないんだがな。


「普通にトールでいい」


「じゃ、じゃあ、トールさん、で」


「はいよ。じゃ、食卓にこの皿持っていってくれ」


「は、はい」


 食卓の皿に焼いた卵やベーコンをよそっていく。

 あとはパンを何枚か切って、コップに水を注げば昼食の出来上がりだ。

 水は汲んでくるのが面倒だったので魔法で生成した。


 ルナは魔法に興味があるようで、俺が火や水を使っているのを興味津々という感じで見ていた。

 ソアレの方も興味はあるようで、何も言わなかったがチラチラとこちらを見ている。


 この村には魔術師はいないのだろうか。

 前の街じゃ割とそこら中にいたけどな。

 まあ、ある程度の魔法が行使できるようになるには、普通はちゃんとした師匠に教わる必要があるからな。

 ここみたいな人口が少ないところだと師匠になってくれるような人も少ないのかもしれない。


「よし、じゃあ食うか。いただきます」


「い、いただきます」


「……ます」


 俺に習ってちゃんと挨拶をして食べ始める二人。

 うむ、えらいえらい。

 食事の前後に挨拶ができるのは大事だ。


「そういや聞かなかったが、二人とも苦手なものはないか?」


「いえ、その、ないです。こんなにおいしいごはん、はじめてです」


「……ない」


「そりゃよかった」


 好き嫌いもないようで何よりだ。

 まあ好き嫌いができるほど余裕のある食事ができなかった、という話でもあるんだろうけど。

 こんな簡素な食事をこんなに喜んでるくらいだし。

 そのうちまともな料理でも作ってやろう。


 昼食を済ませて食器を片付ける。

 二人は身長が足りていないし、まだ健康とは言えない状態なので洗い物は自分でやる。

 そのうち家事を手伝ってもらうようにしてもいいかもな。


 片付けの後にルナがトイレに行くと、ソアレと二人きりになった。

 しばらくは二人とも黙って座っていたのだが。


「……トール」


 初めて名前呼ばれたな。

 ソアレの方は呼び捨てか。まあ別にいいけど。


「何だ?」


「……あり、がと」


「……」


 驚いて返事をしそこねた。

 まさかソアレの方からお礼を言われるとは。


「あたしじゃ、ルナに、ごはん、たべさせてあげられなかった。おねえちゃんなのに」


「……」


「トールは、ルナとあたしに、ごはんくれた。おふろも、ふくも。どれも、あたしじゃできなかった」


 姉として、妹を助けてやれなかったことを負い目に感じてたようだ。

 ……いい姉妹だな。


「だから、その、ありがと」


「……気にすんな」


 俺は手をひらひらさせながら、なんでも無いと言うように言葉を返す。


「お前が姉だから妹の面倒を見ようとするように、俺も大人だからお前らの面倒を見ようとするだけだ。こんなことは、普通のことなんだよ」


「ふつ、う?」


「そ。普通」


 とはいえ、俺にとっての普通は、この世界の普通とはちょっと違うと思うけどな。

 法治国家でもないこの国で、『正しい大人』をやろうと思ったら力が必要だ。

 ありがたいことに、今の俺にはそれがある。

 世界平和なんて目指すつもりはないが、自分の良心に背かず生きていこうと思う。


 ルナがトイレから帰ってきたところで、いつものローブを着て出かける準備をする。

 二人のために必要そうなものを村の商店で買ってこないとな。

 少なくとも寝床が必要だ。


「じゃ、ちょっと買い物行ってくる。ここでおとなしく待ってろ」


「は、はい」


「……ん」


 とりあえず、返事をすぐに返してくれるくらいにはスムーズな会話ができるようになったな。

 これからここでしばらく暮らしていれば、少しは俺になついてくれるだろうか。

 まあ、それはおいおいだな。


 そう思って俺が玄関のドアに手をかけたところで、家の外から野太い怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい!ここに越してきた奴ってのは誰だ!?いるなら出てこい!」


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