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隣家訪問

 隣の家は十メートルほど歩いたところにあった。

 その家の前に立って眺めると、その様子に軽く驚いてしまう。


 (なんか、やけにボロいな……)


 窓ガラスは何枚か割れてるし、玄関前には雑草が生え放題だ。

 うちと同じ二階建てだが、上の階の窓は全て雨戸が閉まっており中の様子は全く見えない。

 まるで人目を避けるように生活しているような雰囲気がある。

 とは言え玄関前の地面にある歩いた跡は割と新しいし、誰かが住んでいることは間違いなさそうだ。


「おはようございまーす」


 玄関のドアをノックしながら声をかけてみるが、返事はない。

 だが中からは全く返事がない。


(朝から留守か……?しっかし入り口のドアもガタガタだな)


 いくら田舎って言っても鍵くらいはまともに……かかってねえ。

 俺が軽くドアを押すと、そのまま軋みながらあっさり開いてしまった。

 無用心ってレベルじゃねえな。


「誰かいますかーっ……と」


 軽く覗き込んで声をかけるが、やはり返事はない。

 そして中もかなり荒れてるな。空き巣でも入ったみたいだ。

 にしては昨日村人からそんな話聞かなかったしな。


(しゃーない、出直すか)


 俺がそう思ってドアを閉めようとした時。

 部屋奥からカタリ、と物音がした。

 ……なんかいるな、こりゃ。

 部屋を荒らした張本人かもしれんし、家に押し入ったやつなら隣人としてとっちめておいたほうがいいだろう。


 警戒しながらドアから家の中へと入り、倒れた椅子やテーブルの隙間を縫うように奥へと進む。

 そしてその奥にある台所らしき場所から、かすかに人の気配を感じる。

 その奥を覗くと、そこに先程の物音の主がいた。


 ボロ布を体と頭に巻きつけた、小さな子供が二人。

 裸足の足と顔しかみえないが、小さく体を震わせながら、身を寄せ合うようにしてこちらを見ている。

 何かに怯えているようだが、俺の顔や目つきのせいではないだろう。たぶん。

 見ているだけで話が進まないので、ひとまず声をかけてみる。


「あー……この家の子供か?」


 二人のうちの一人が、ゆっくりと頷く。

 もう一人はこちらを見るだけで、なんの反応も返してこなかった。

 この家で何があったかは知らないが、二人ともあまり健康な状態ではなさそうだ。

 どうしたものかと思っていると、二人の方からきゅう、という音がする。


「腹減ってんのか」


「……いえ、その……はい」


 なにやら曖昧な返事だったが、空腹らしい。

 声からするとどうやら女の子のようだ。

 ならひとまずは何か腹に入れておいたほうが会話もしやすいだろう。

 そう思った俺は二人の方へと歩み寄ると、手土産にもってきた焼き菓子を袋の中から一つ取り出して差し出す。


「食うか?」


「いいん、ですか?」


「腹減ってたら話もしにくいだろ」


 俺がそう言うと、尋ねてきたほうの少女がおずおずと俺の手から焼き菓子を受け取る。

 そしてそれを食べる、かと思ったらもう一人の返事を返そうとしてこない方の子供に手渡した。


「おねえちゃん、たべて?」


「……うん」


 渡された方の少女が、少しずつクッキーをかじりだす。

 二人は姉妹のようだな。


「あの、ありがとう、ございます」


「ん。いいからお前も食え」


 そう言ってもう一枚差し出した。

 今度は先程よりもすんなりと受け取ると、二人揃ってもそもそとクッキーを食べる。

 伸ばしてきた手を見た感じだと、しばらくの間ろくな食事をしてこなかったみたいだな。


「全部やるから、好きなだけ食え」


 俺がそう言って袋を広げて二人の前に置くと、二人は勢いよく、貪るように菓子を食べ始めた。

 しかし見れば見るほどひどい状態だな。

 手も足もガリガリだし、こんなただの焼き菓子を夢中になって食うぐらいに空腹になってるとは。

 親は何やってんだ?


 俺がそう思っていると、夢中になって食べていたせいか、ずっと喋らなかった方の少女の頭の布がずり落ちた。


「……あっ!」


 慌てて頭を隠すように布を被ったが、もう見えてしまった。

 彼女の頭に、人間のものではない獣の耳が生えているのが。

 それを見て、俺はなぜこの二人がこんな状況なのかを理解する。


「……お前ら、半人デミか」

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