2ー1 人非ざる力
ここだけ絵本調です。どうしても一部分がシリアスにし切れませんでした。
ついでに三人称です。力不足すみません ><
公爵邸へと連れてこられた女の子が竜であることは極秘裏とされていましたが、人非ざる美を体現したその姿は幼いながらもどこまでも異質で、しかも2年の時を過ぎても、言葉どころか声すらまったく出さないせいで不気味だと遠巻きにされておりました。
そうしてそれは、ある日突然のことでした。
「…貴女、誰?」
誰もやりたがらないリリィディアの世話を押し付けられた醜くてドンくさいばかりの女中であった侍女が、絶世の美女になったのです。
本人も鏡を見て吃驚です。
「わたし…私はお嬢様に『ぶちゃいくイヤ!』って罵られて…」
困惑した、美女になった元不細工な侍女が言ったその言葉に、ばたばたと公爵邸にいた侍従長や侍女頭がリリィディアの部屋へと集まりました。
部屋に入ってきた大人たちを見た瞬間、リリィディアは叫びました。
「もうっ。ぶちゃいくはヤだっていってるのっ!!」
その瞬間のことでした。
一瞬で、リリィディアの周囲には、いえ、国中の人間が一人残らず美形になったのです。
ある女は妖艶な美女に、ある女は清楚で儚げな姿に、もしくは甘い綿菓子の様な愛らしい容姿に。
ある男はすらりとした長身に甘いマスクの優男に、ある男は惚れ惚れするような引き締まった筋肉にニヒルな表情が似合うダンディに、もしくはきりりとした知性溢れる眼差しを持ったクールな紳士に。
視界に入る全ての人が、思わず誰もが見惚れるような美男美女だらけになったのです。
当然ですが、ラモント公爵邸は大騒動…にはなりませんでした。
だって皆が、鏡や水を湛えた器や窓ガラスに映り込んだ自分に釘付けになっていたのですから。
居丈高な態度はそのままに、誰もが見惚れるほどの美丈夫となった公爵が知らせを聞いて走り込んできたのはその日の夜遅くでした。
突然、王国を襲った惨劇…ではなくて慶事、もしくは珍事に、王宮のみならず大騒ぎになっていて上を下への騒動になっていたのです。
実はここだけの話、レイン・ノル・ラモント公爵の姿は薄っすら脳天シースルーもといテッペン禿げでした。
この国の中ではかなり上背がある方だったこともあり正面から見上げるだけなら普通にみえるので、これまで誰からも指摘を受けたことはありませんでした。そう本人すら気が付いていませんでした。自分の容姿に自信を持っている公爵がそれを知ったらどれだけ荒れることになるか。その事に恐怖した傍付きの侍女が毎朝必死で持っている技術を駆使し不自然にならないよう周囲から髪を集めオールバックで隠していたのです。
それが、今や見事なまでにふっさふさでした。
艶も腰もなくなっていた細い髪はまるで生まれ変わった様に張りを取り戻していました。
なにより、自分では未だ端正だと思っていたものの加齢に伴いどこか締まりがなくなり凡庸となりつつあった顔も引き締まり、体形だって二十歳の頃よりお腹がスマートになっていました。そう、まるで別人のようですが、それは確かに公爵本人だったのです。裾や袖はどこか短くなり腹回りなどがぶかぶかになってはいたものの、朝、公爵が着て出て行った服はそのままでしたし、なにより声は公爵本人のものでした。
「リリィディア。これは…お前がやったのか?」
これが何を指す事なのかすら示さずに公爵は幼いリリィディアへと問いかけます。
すると
「…お髭の形、きらい」
むっとしたリリィディアがそう呟いた途端、夕方から伸びてきていた無精髭が立派なダリ髭になりました。ついでに髪形もそれに合わせてダンディなものへと変わりました。一瞬でした。
「ぶちゃいくじゃなくなったから、会話に付き合ってあげてもよろちくてよ」
表情を明るくしたリリィディアが、いかつい顔をしていた教育係(現在は麗しくも中性的な美貌の佳人である)へと返答をするようになったのも、それ以降のことだった。
そうして。王国全土に起こったこの珍事は『稀代の英雄レイン・ノル・ラモント公爵による、成竜の鱗がもたらした奇跡』だと発表され、再び国を挙げてのお祭り騒ぎが沸き起こり、その熱狂は3日間も続きました。
問)なんでリリィディアの竜の力は封印されているのに魔法が使えたんですか?
答)国に対する加護だからです。封印対象外。
どうしても、頭に生えるアレに不自由をしている方についての記述がシリアス調にできなくて…すみませんでした ><
次回からまたシリアス先輩が頑張ります。よろしくお願いします。