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竜の乙女は悪役令嬢になることに決めました。  作者: 喜楽直人
第3章 悪役令嬢 リリディア
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3ー2 ハニーピンク男爵令嬢VS悪役令嬢

いつも読みに来て下さってありがとうございますです



 わたくしはまず、今日も今日とて王太子殿下を待ち伏せしているであろうハニーピンク頭を探すことから始める。

 当たりをつけていた場所にいてくれたので大して探し回る必要もなく、彼女は見つかった。

 そうして、協力を要請しておいた烏に王太子殿下を呼び寄せて貰うよう合図を送った。烏が空に大きく丸を書くのを確認して、私はその作戦を開始した。

 どん、と後ろからハニーピンクの女生徒にぶつかる、つもりだったのに。

 わたくしが男爵令嬢にぶつかる前に、そのハニーピンクの頭がわたくしに向かってぶつかってきた。そうして更に、

「きゃあっ」

 愛らしい声で悲鳴を上げて可憐な動作で地に転がった。わたくしは吃驚してしまい動きが止まってしまった。

「ううう。痛いですぅ」

 涙も浮かんでいない大きな瞳を、下げた眉が悲し気に歪んで見せる。

 そこに浮かぶ表情は可憐そのものですべてのものの庇護欲を刺激する。

 周囲に侍っていた男子生徒たちがこぞって転んだままの男爵令嬢へと手を差し出していた。

 そこに、どうやってだかは知らないが烏が連れてきた王太子が声を掛けた。

「どうした。何があった」

 人混みを掻き分けてやってきた王太子の顔を見て、ようやくわたくしは自分の計画を遂行しなければならないことを思い出した。


「わたくしはただ歩いていただけです。そうしたら、いきなりこの令嬢がわたくしにぶつかっ「違います。なんで嘘を吐くんですか、リリィディア様!」」

 えー?

「わたし…私がここにいたら、突然後ろから来たリリィディア様に押しのけるように突き飛ばされて…うっ。謝ってもくれなくて、睨まれて。怖かったですぅ」

 すごい。話している内に、彼女の瞳に本当に涙が溢れてきたのを見て、わたくしは男爵令嬢の女としてのスキルレベルの高さに圧倒されてしまった。

「うわーん、キャメロン王太子殿下さま、助けてください~!!」

 更に、「足を怪我してしまって。痛くてとても立てません」と縋りつく。完璧だわ。見習うつもりは全くないけれど。

 呆然としている内に、「リリィディア、詳しい話はあとで聞かせて貰う。今は彼女を保健室へ運ぶ。いいな」そう颯爽とお姫様抱っこで男爵令嬢を抱え上げると速足で立ち去ってしまった。

 そうして。立ち去るその瞬間。男爵令嬢がちろりと舌を出してわたくしを嘲ってきたのを見つけた。

 わたくし以外には見えないことを計算して行われたらしいその挑発にも感心するばかりだ。

 集まっていた人だかりが消えて、生徒たちが教室へと戻っていき、そこに静けさが帰ってきたころ声が掛けられた。

「くえっくえっ。さすが儂が見つけてきた逸材じゃろ? あの娘ならやり通せると思わぬか?」

 聞かれるまでもないわ。えぇ、勿論同意させていただくわ。

「素晴らしいわ。完璧な人選よ」

 わたくしは、頼もしい助っ人の登場に心を躍らせた。



 翌日の朝。

 またしても校門のところで待ち伏せしていた様子のハニーピンク男爵令嬢が、王太子殿下を見つけてその腕に纏わりついたことを物陰から確認したわたくしは、できるだけさりげない振りをしてその後ろから歩み寄った。

「王太子殿下、おはようございます。朝からお元気そうで何よりですわ」

 腕に絡みつく令嬢を視界に入れないように王太子にだけ向けて声を掛ける。

「リリィディア。こいつは…」

「いやん、カム様ったら照れちゃってぇ♪ うふふ。リリィディア様、おはようございますー」

 素敵ね。もう愛称呼びをされる仲にまで発展させるなんて。さすがだわ、ハニーピンク男爵令嬢。

 感心はしても、声は掛けないわ。だってその方が婚約者の浮気に悋気を起こす悪の公爵令嬢らしいでしょう?

「おい、僕はお前になんか愛称で呼ぶことを許していないぞ! 大体、僕には婚約者が「いやん、コリーって呼んで下さいってお願いしたじゃないですかぁ」」

 残念だわ。正式な許可を得て呼んでいる訳ではなかったのね。でも王族に拒否されても止めないなんて、やっぱり素晴らしい逸材ね。普通はここまで厚かましい行動には出られないものだもの。

 それに、本当ならとっくに後ろに控えている側近たちに阻まれている筈。

 ちらりと後ろに控えた生徒に視線を送る。

 側近たちだけではなかった。名だたる高位貴族の令息たちがすべて揃っているのではないかしら。勿論、それ以外の辛うじて貴族位を戴いているという程度の男爵や准男爵家の子息も遠巻きながら顔をこちらに向けている。視線の先にいるのは勿論ハニーピンク男爵令嬢だ。

 素晴らしい手腕としか言いようがない。

 と、言いたいところだけれど、実際には期待外れだ。

 王太子の態度がまったく変わっていないのはどういうことだろうか。

 他の子息たちをどれだけ墜とそうと、肝心の王太子殿下を攻略してくれないことには意味がないのだから。

「それより、リリィディア。なんで昨日、僕の呼び出しに応えなかった? 説明をしろと…うわっ、お前、どこ触ってるん、うわあーーっ!!」

 腕に絡みついていたハニーピンク男爵令嬢の身体の位置が何だか妙に下にある気がする。どこをどうしているのか確認するつもりはないけれど、朝から頑張り過ぎではないかしら、あの子。

「助けろ、誰か僕をたすけろー!」そんな叫び声を横に聞きながら素通りした。

 まぁ、頑張って欲しいと思う。二人共に。


 今日もお昼休みの時間を使って、ランチを取りながら生徒会室で書類の整理を進める。

 ようやく今日の分の書類にすべて目を通し、サインをし終わったところで温くなってしまった花の蜜を入れた紅茶を飲んだ。

 ホッとしたと同時に、ずっと頭にあり続ける悩みが口から出て行った。

「…どうすれば殿下の心を、ハニーピンク男爵令嬢に奪って貰えるのかしら」

 卒業までもう半年を切っている。

 このタイムリミットまでに婚約破棄を手に入れられなければ、わたくしは王太子と婚姻を結ばされてしまう可能性が非常に高くなるだろう。

「くぇっくぇっ。いっそのこと、あの拗らせ王太子と幸せな結婚をするっちゅうのもありなんじゃなかろうかの」

 なにやら不快な声で茶々が入る。振り返らなくても判る。烏の声だ。

「無理よ。なんとしても王太子との婚約を破棄しなければ。これは絶対よ」

 つい大きな声で否定してしまった。いけない。わたくしとしたことが端ないことをしてしまった。なによりこの事を他の誰かに聞かれる訳にはいかないというのに。

「そうかのぅ。あれ、ちょっと拗らせとるがなかなかの優良物件じゃぞい?」

 それはそうだろう。わたくしと比べられてしまうから評価が低く抑えられてしまっているだけでキャメロン王太子殿下は十分すぎるほど優秀だ。

 学力だって入学前に比べたらかなり高くなった。

 近隣諸国の言語は日常会話レベルでマスターしているし、ダンスだって上級者だ。

 少し俺様な所は残っているけれど、それだって前に比べたらずっとましだ。昨日の件だって、ハニーピンク男爵令嬢の一方的な申し立てを鵜呑みにせず、わたくしの話も聞こうと努力をしてくれた。

 彼は成長している。知っている。

 毎月のお茶会も、顔を合わせるなり文句ばかりつけてくる癖に参加を取りやめたことなどこれまで一度だってなかった。

 あちらだって政略だとしか思っていないのだろうけれど、それでも十分に誠意をもって対応して貰っている。判っている。

「勿論、存じておりますわ。でも、駄目なものは駄目なのです。…どんなに人と見た目を寄せてみても、わたくしの中身は違います。どこまで行っても、わたくしはこの国の中では異物なのです」

 異物は歪みの元となる。早めに避けておかねばそれは取り返しのつかない災いを産むだろう。

「それにもし…もしもの話ではありますが、その”幸せな結婚”というものをわたくしが王太子殿下と叶え、わたくしが人との間に仔を持つようなことになった場合は、その仔はわたくし以上の疎外感と孤独を味わうことになるでしょう」

 わたくしは人ではない竜だ。しかし封印されたままでは竜として暮らすことはできない。それでも、私自身は竜だ。

 そんなわたくしと人間の間に生まれてきた子はどちらになるのだろう。

 竜が強く出るのか、人が強く出るのか。見た目はどちらに? 性質は?

 親であるわたくし達と違う存在でしかない子供。兄弟姉妹ができたとて、自分に似た性質や見た目になるとは限らない。より自分を孤独にするものとなるかも知れぬ、その恐怖。

 竜には人だと誹られ、人には竜だと恐れられる。

 この世に自分以外に同族と心から言える存在はいないのだ。

 同族と触れ合うこともできないわたくしには、それがとても恐ろしい。

「わたくしも貴族の子女として育てられてきました。ですから政略結婚の意義についても判っているつもりですし、嫌われている相手と愛のない結婚をする覚悟もありました」

 そう。わたくしは王太子殿下からは嫌われている。嫌われる努力なんて本当はしなくてもいい位。最初からずっと嫌われている。

 自分の事を知る前は、それでもそのまま結婚を受け入れるつもりだった。

 嫌われている事は承知の上で受け入れる覚悟があった。

 しかし、これは全然話が別だ。愛があるとか政略だという問題などとは別格のものだ。

「王太子殿下とは結婚できない。不幸しか呼ばない結婚は間違いです。なんとしても阻止しなければ」

 わたくしは、静かにそう言い切った。

 いつもは茶々を入れずにはいられない口達者な烏も、そのまま黙っていなくなっていた。


 なんて。偉そうに話したけれど、これは公爵令嬢としての建前だ。

 わたくしの心には求める存在が他にいる。本当はそれだけ。

 どんなに努力を認めても、敬意を示したくなる相手だろうと、そんなこと関係なんてない。

 ただ、わたくしが婚約者以外の存在に心を奪われた。

 それだけだ。

「駄目な公爵令嬢ね。悪役以下だわ。他に、心を寄せる方が…できるなんて…ふっふふっ…ふっ、くっ…ひっく…」

 勝手に流れていく涙で頬が熱かった。


 今すぐ、あの方に会いたかった。


ポンコツ王子萌え

ポンコツ悪役令嬢萌え萌え


段々サブタイが雑になってきた(いつものことやんけ


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