2ー7 婚約者とのお茶会にて
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「お前。いつも偉そうでムカつく」
それは月に一度開かれる婚約者同士のお茶会でのことだった。
今月は偶数月なので王宮のテラスで開かれている。
気候のよい晴れた日のことだったので、王族専用の庭へと続く窓は大きく開かれて、風に乗って春咲きの薔薇の香りがここまで届いた。
来月にはこの国の貴族の子女が集まる王立貴族学園への入学が決まっている。
3年間その学園へ通い、卒業したら即、リリィディアは王太子である目の前の婚約者と正式な婚姻を結ぶ手筈になっていた。
しかし。産まれた時から結ばれていた同い年の婚約者達は15年もの長き時をすぐ傍で過ごしてきたにも拘らず、仲が良いとは到底言えない関係であった。
というより、むしろ破綻させるために、リリィディアはここにいる。
「偉そうとは、どういうことでしょうか。わたくしはラモント公爵家唯一の子女。そうして王太子たるキャメロン第一王子殿下の婚約者であり、未来の王妃ですわ」
偉くて当然ではごさいませんこと? そう嫣然とわたくしは微笑み答えた。
繊細な金彩が施されたカップの縁へそっと唇を寄せ花の蜜入り紅茶を含む。その芳醇な香りが口の中と広がっていくのを愉しんだ。
そうして頃合いを計らいゆっくりと、その言葉を口にする。
「あぁ。それと入学前の学力試験でしたら、わたくしが第一等でございました。
入学式での新入生挨拶と、今年度の学年長はわたくしが選ばれましたわ」
会話に毒を織り交ぜ、ここぞという急所に向かってトドメを刺す。
そう、わたくしはこの王太子に媚を売る必要などないのだ。
わたくし以外の方へは易々と贈る明るい笑顔を、心安い言葉を希うこともしなくていい。
むしろ、婚約破棄という目標に近づくために積極的に嫌われなければならない。
そう思うと、これまでずっと苦痛でしかなかった相性の悪い婚約者とのお茶会も楽しく過ごせるようになった。
美しく咲き誇る薔薇の庭。大嫌いなここに座っていなくてはいけないこの地獄のような時間を。
「ぐっ。女の癖に」
「あら? 女に手加減をして貰わなくては勝てないことをお認めになってはいけませんわ、殿下。御身はこの国で陛下の次に貴き身の上であらせられます。そうしてその尊さは誰かに譲られたものではなく、ご自分で掴み取ってこそですわ」
無理でしょうけれどね、と言葉の外側に乗せて、わたくしはできるだけにこやかな表情でテーブルに置かれた皿から小さなプティフールを指示して自分の皿へと取り分けて貰った。
「うふふ。王宮の菓子職人は本当にいい腕をしていらっしゃいますね。わたくし、毎月こちらで戴くケーキが楽しみで仕方がありませんの」
このお茶会で得られる楽しみはそれだけだと暗に伝えながら、ゆっくりとした所作で優雅に元々小さなケーキを更に小さくひと口大へとフォークで切り取り口へと運んでいく。
フランボワーズのサワークリーム。その爽やかな酸味と甘さのバランスが絶妙で、土台となっているココア入りのビスキュイ・オザマンドゥのアーモンドと卵黄の温かな味わいがそれをやさしく受け止め更にココアの味が深みを出している。
掛け値なく、ここで出されるケーキは美味しい。
わたくしがその至福の味わいを堪能している間、王太子は憮然とした顔で前に座っている。たまに腕を組んでいることもある。
せめて一緒に紅茶を愉しむくらいしてくれてもいいのに。そう願っていた頃もあった。
せめて笑顔でいてくれてもいいのに。そう悲しく思ったこともあった。
けれど、もうそんなことは思わない。
だから今も腕を組んでわたくしを睨みつけている婚約者に向かって、わざとらしく笑みを向けた。
──わたくしは、あなたがどんなに睨もうとも平気なのです。
そう、伝える為に。
向かい側に座る王太子の頬を赤く染める。
わたくし、簡単にそんな顔をしてみせる王太子のことが嫌いなんですのよ。
言葉には出さないけれど。
睨みつけていたことがバレた程度で恥じていることをあからさまに表すなど、修業が足りないとしか言いようがない。
いっそ不快だと直接伝えてしまおうかとも思うけれど、あからさまな行動にでた報復が完全封印だったら困るのは自分なのでやめておくことにする。
「生意気な。だから僕は…お前が嫌いなんだ、リリィディア」
小さく呟いた言葉は、呟いた本人の心の色とは全く違う音をもって響いた。
そうしてそれは、お茶会の終了の合図ともなった。
ガタンと大きな音を立てて、殿下が席を立つ。
そうしてそれ以上声を掛けることも振り返ることもせずに、お茶会会場であるテラスから出て行った。
「あぁ、美味しい。お茶の途中にいきなり席を立つなんて。殿下はお茶会でのマナーがなっておりませんわね」
そう愚痴を言いながらも、わたくしは、足早に去っていく後ろ姿に視線を送ることすらせず、次はどのケーキを食べようかと傍に侍る侍女に向かって楽し気に声を掛けた。
薔薇の花は今日も美しく王宮の庭で咲き誇っている。
どんなに私から疎まれても。
不憫殿下萌え萌え




