10:実力差
夕食を終え、訓練場に向かった。
(闘気がここまで伝わってくる。鈴奈の奴本気だな。)
「約束通り来たぞ。」
「来てくれたのね。さっそくやりましょうか。」
「おう、そのつもりできたけど一ついいか。
俺の実力が気になったのは、勘か?何かの能力か?」
「勘よ。それに前の世界から思ってたもの。」
「まぁいいか。やろう。」
「じゃあ、ルールは魔術抜きの武道の勝負でいいかしら。」
「ああいいよ。来な。」
「はああああ!」
《波砕流・静水一閃》
鈴奈から、水が流れるように滑らかで静かな抜刀の一閃が、
神哉の急所へ的確に放たれた。そして、首と体が別れたかのように見えたが、
「んなっ!!!」
殺意のこもった一撃を、
真剣白刃取りの容量で、横からの斬撃を人差し指と中指の2本で止めた。
そこには、誰が見ても明確な実力差があった。
「すまんな。実力を見せるにはこれが一番だと思った。」
「想像以上ね。
私より強いかもとはおもっていたが、ここまでとはね。」
なぜかは分からないが、
無理した引きつった笑い方をしていた。
だが、それは俺が今までで初めて見た鈴奈の笑顔だった。
「お前も十分な程に強いぞ。」
「でも、あなたには遠く及ばないわ。」
一瞬に鈴奈の目から光が消えた。
「訓練もそうだが、お前少し無理しすぎなんじゃないの?
そんなに強くならなきゃいけないの?」
「そうね。力が必要なの。」
「まぁ、お前の周り変な奴多いしね。」
「それもあるわね。
皇雅君は自分勝手で突っ走るし、
健太君が仲がいいせいで、綾香までついて行っちゃうから
私も行かなきゃならなくて大変だし。」
「そうだな。
だからお前も肩の力を抜いて、俺を頼れよ。
お前より強いんだからな。」
「ありがとね、そうするわ。」
「それが一番だな。人間出来ることしか出来ないし。」
「ふふっ、それは少し響いたわ。
くどいてるのかしら?」
「どうかな。」
「本当の理由なんだけど、私にはね、姉がいるの。
私みたく不愛想でなく、人当たりが良くてみんなに好かれてる。
私にできないことを涼しい顔してやってしまうの。
それを見ているとどうしても力が入ってしまうの。」
「そうか。
だがな、お前にしか出来ないこともある。」
「そんなのないわ。」
「いやあるさ。例えばこの世界を救うこととかな。
お前のお姉さんにはこの世界を救う権利すらてにできなかったんだ。」
「でも、姉が呼ばれていたらと思うと。」
「お前ちょっとめんどくせぇな。考え過ぎなんだよ。
言ったろ。出来ることしか出来ないって、
お姉さんがここに来るのは出来ないの。
だからお前にしか出来ないんだよ。」
「ふふっ、それもそうよね。
ありがとう、楽になったわ。あなたに相談してよかったわ。」
(不思議な人一緒にいるだけで、気持ちが楽になってくる。
この話もするつもりじゃなかったのに。)
「それはよかったよ。
だけど、そんな頑張るなんて良い妹だな。
うちのなんてまだ兄貴離れが全然できてないぞ。」
「あら、神哉君はシスコンだったのね。
これは皆に言わなくてはね。」
「ふざけんなって。」
「うふふっ。冗談よ。」
「いい表情になったな。
帰るぞ、寝る時間がなくなっちまう。」
この日最後に見た笑顔は、鈴奈に会ってから初めての
心からの笑顔だった。
体を綺麗にし、ベッドに着いた。
今日鈴奈と戦ったが、最強レベルのあいつでさえこの程度、
いくら訓練するといってもあいつが敵ならいくらやっても足りない。
ここを出て一人でやるのも考えなきゃな。
それにしても妹か・・・何してるかな。
そんなこんなで、基礎訓練で1週間がたった。




