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下半天球  作者: 大根出汁
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「人間のした最も大きな発明ってなんだと思う?」


 君は突拍子も無く聞く。

 奴は昔から不思議なやつだった。普段は俺の忌み嫌う陽キャとか言う奴らの中心としてシャーペンの芯がノートの上を滑る音をかき消すくせに、お前はいつも学年の定期考査では一位をとっている。そんなくせして、小学校の頃からの腐れ縁というやつなのか無駄に俺を見つけては絡んでくる――それより最も大きな発明だったか?銃とかだろうか。戦争というものはいつも渦の真ん中にあるものだ。もっと根幹に目を向けるなら、武器……それは思考よりも先に口から出た。

「文字…かな」

そういえばそうだ。中学生の頃にクラスの能無し共に喉を掻っ切られた時だって。そこにキーボードとシャーペンがあった。あのときも――

「ふむ。そこで火薬だとかモノじゃなく、概念を答えるとは、気に入った!三十点くれてやろう!」

思考を遮るように隣にいる君が叫ぶ。普段なら邪魔された苛立ちが先行するのだろうが、不思議と怒りは湧いてこなかった。

「そういうお前は何なんだと思うんだよ」

「僕は恋かな?」

「へー。三点だな」

そうは言ってもらしくない答えに動揺していた。しかし、このまま奴に負けるのはプライドが許さないので反論を試みる。

「生物として同種の異性に性的興味を示すのは生物の最低限度の反応だろ」

この言葉は、本音かどうかは分からない。とりあえず、言い返しておきたかった。それだけだ。

「君らしい持論だね」

奴は少し悲しげな顔で笑う。その顔から感じられる哀愁は、奴を言葉で打ち負かしてやった喜びよりも強く良心を刺激した。少し風が強くなり半分ほど色づいてきていた銀杏並木の葉が乾いた音を立てる。その音は、俺の心臓を軽くなでた。優しさよりもくすぐったい感覚を覚える。

「平和的解決をするなら、文字と恋か……ラブレターってやつだな!」

この言葉を聞いて俺は確信した。「ああ…俺はこいつには勝てない」と。普段は気づかなかった道の横を流れる小川が何かを洗い流してくれた。


僕は今夜初めて自分ではない人間のために文字を描いた。

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