【第7話】 ウラン濃縮
原子爆弾の原料や原子力発電の燃料である天然ウラニウムは、ウラニウム鉱石として世界各地で産出される。
ただし他の天然資源と同様、天然ウラニウムが大量に採掘出来る地域は限られており、ウズベキスタン・カナダ・オーストラリアの3ヵ国で、世界のウラニウム生産量の約2/3を占めている。
人類のウラニウム利用の歴史は非常に古く、紀元前より着色料として使われていた。
そしてウラニウム元素は現時点で33種類の同位体が確認されているが、安定同位体は一つも存在しない。
全てが放射性同位体である。
33種類の中で自然界に存在するウラニウムの同位体となると、ウラン238・ウラン235・ウラン234の3種類しか存在しない。
その中でも、原子爆弾の原料や原子力発電の燃料として使用出来る核種は、核分裂性物質であるウラン235に限られる。
ところが天然ウラニウムに含まれるウラン235は、僅か0.72%程度に過ぎない。
ウラン234に至っては0.0054%という、ごく少ない割合しか含まれていない。
このようなウラン235の含有率の事を、「ウラン濃度」と呼んでいる。
天然ウラニウムの99%以上はウラン238で構成されており、このままではウラン濃度が低すぎて、原子爆弾の原料としてはもちろん、軽水炉を使った原子力発電の燃料としても使う事は出来ない。
軽水炉とは、原子炉内で放出される高速中性子を減速させる材料として軽水(普通の水)を使用する原子炉の事であり、世界に存在する原子炉の約80%が軽水炉である。
そして軽水炉を使った原子力発電の燃料として使えるようにするためには、ウラン濃度を3%~5%にまで高める必要がある。
ただ原子力発電の場合、爆発的な連鎖核分裂を起こされては困るので、ウラン濃度を必要以上に高める事はない。
一方、ウラン235を原子爆弾の原料として使うためには、ウラン濃度が3%~5%程度の低濃縮ウランでは全く不十分だ。
最低でも80%以上にまでウラン濃度を高める必要がある。
限りなく100%に近付けられれば理想的だ。
このようなウラン濃度を高める作業の事を「ウラン濃縮」という。
ウラン濃縮の方法はいくつか存在するが、歴史上初めて実用化されたのが「ガス拡散法」である。
ガス拡散法ではウラン235とウラン238の質量の違いを利用して、2つの同位体を分離する。
ウラン235とウラン238では質量が違うため、六フッ化ウランをガス状に気化させた場合の拡散速度が異なる。
「六フッ化ウラン」とは、天然ウラニウム鉱石から精製された、ウラニウム化合物の事である。
六フッ化ウランは常温では固体だが、56.5℃まで温めると昇華してしまうため、簡単に気化させる事が出来る。
気化したウランは微細な穴が開いた壁に導かれるが、穴を通り抜けた際に、質量の小さいウラン235の方が、ほんの少しだけ多く通り抜ける。
その結果、わずかにウラン濃度が高まったガス状ウランが生成される。
これを何度も繰り返す事により、徐々にウラン濃度を高めていくのがガス拡散法である。
ガス拡散法は単純だが極めて効率が悪い方法であり、莫大な時間と電力を消費するため、現在ではほとんど使われる事は無い。
こうしたガス拡散法の欠点を解消するために考案されたのが「遠心分離法」である。
遠心分離法は六フッ化ウランをガス状に気化させるところまでは、ガス拡散法と同じである。
遠心分離法の場合、気化した六フッ化ウランを遠心分離器にかける事で、ウラン235とウラン238を分離する。
遠心分離法は従来のガス拡散法に比べて、ウラン濃縮の効率が30倍になり、消費電力は10分の1になるため、日本を始め、多くの国で採用されている。
それ以外にも、レーザー原子法やエアロダイナミック法といったウラン濃縮法が考案され、研究が続けられている。
そしてウラン濃縮の結果、生成されるのは濃縮ウランだけではない。
ウラン235が取り除かれた「劣化ウラン」も副産物として生成される。
劣化ウランは「減損ウラン」とも呼ばれており、ウラン濃縮という観点から見れば廃棄物に過ぎないが、非常に重くて固い金属であるため、砲弾の弾頭としての利用に適している。
弾頭として劣化ウランを使用した砲弾は「劣化ウラン弾」と呼ばれている。
劣化ウラン弾は名前のせいで核兵器の一種と誤解されやすいが、実際には通常兵器であり、核兵器とは全くの別物である。
『第8話 兵器級プルトニウム』は4月3日(金)20時に公開予定です。