【第5話】 核分裂反応Ⅰ
核分裂反応とは、その名の通り単一の原子核が複数の原子核に分裂する現象を表す。
前回説明の通り、放射性同位体は時間の経過とともに放射性崩壊現象を起こし、別の原子核へと変化していく。
例えばアルファ崩壊によって飛び出すα粒子は、構造的にはヘリウム原子核そのものであり、その意味ではアルファ崩壊は核分裂の一種に他ならない。
同じようにベータ崩壊も核分裂の一種という事が出来る。
ところが特定の放射性同位体において、アルファ崩壊やベータ崩壊とは異なる種類の核分裂を起こす物質が複数存在する。
これらを総称して「核分裂性物質」と呼んでいる。
その中でも代表的なのが、ウラン235とプルトニウム239である。
ウラン235やプルトニウム239の核分裂には、以下のような特徴がある。
1.分裂後の原子核はヘリウム原子のような軽い原子核ではなく、原子番号の大きい原子核になる。
2.核分裂に際して2~3個の高速中性子(高エネルギーを内包する中性子)を放出する。
3.核分裂の連鎖反応が起こす場合がある。
4.核分裂に際して熱エネルギーが発生する。
順番に説明しよう。
まず核分裂の引き金になるのは中性子の吸収である。
例えばウラン235の原子核が中性子を吸収すると、原子核は一気に不安定になり、2個の原子核に分裂する。
分裂のパターンは一定ではなく、下記のように複数のパターンが存在する。
〇ウラン235がクリプトン92とバリウム141に分裂した場合、核分裂と同時に3個の高速中性子を放出する。
〇ウラン235がイットリウム95とヨウ素139に分裂した場合、核分裂と同時に2個の高速中性子を放出する。
アルファ崩壊では、ヘリウムという非常に軽い原子核が、元々の原子核から欠片のように飛び出すイメージだが、核分裂性物質の場合、上記のように比較的重い複数の原子核に文字通り分裂するイメージになる。
そして、分裂時に放出された高速中性子が別の原子核に吸収されなければ、それ以上何も起こらない。
放出された高速中性子が別の原子核に吸収された場合でも、吸収した原子核がウラン238のような核分裂性物質以外のものであれば、核分裂は持続しない。
しかし、放出された高速中性子を別のウラン235の原子核が吸収した場合、そこでまた核分裂が発生し、さらに2~3個の高速中性子が放出される事になる。
つまり原子核の分裂⇒高速中性子の放出⇒別のウラン235原子核への吸収⇒原子核の分裂というパターンが繰り返される事で、核分裂が連鎖的に発生する現象が起こる。
原子物理学では、この現象を「連鎖核分裂反応」と呼んでいる。
そしてこれこそが原子爆弾が「爆発」する原理である。
ようやく原子爆弾が爆発する原理にまで辿り着きました。
次回は最後に残った4番目の特徴について、相対性理論とも絡めて説明していきます。
3月20日(金)20時に公開予定です。