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【第4話】 安定同位体と放射性同位体

同位体の核種は、元素によって数が異なる。


例えば前回取り上げた酸素の同位体は17種類の核種が存在したが、マグネシウムの同位体の核種は22種類ある。


そして同位体には、このような核種による分類に加えて、別の基準の分類がある。


それが安定同位体と放射性同位体である。


安定同位体とは名前の通り、自然界で安定して存在し続ける事の出来る同位体であり、およそ300種類の安定同位体が存在する。


これに対して、放射性同位体は原子核の状態が不安定であり、時間の経過とともに崩壊してしまう。


原子物理学では、この現象を「放射性崩壊」と呼んでいる。


実際には、核種の大半は放射性同位体であり、未発見の種類を含めて、7000種類以上が存在すると推定されている。


放射性同位体の原子核は、同じ核種であれば、同じペースで崩壊していく。


そして放射性崩壊は、以下の三種類に大別される。


1.アルファ崩壊


原子核は、その特性としてα粒子と呼ばれる、陽子2個と中性子2個が結合した状態が最も安定している。


そしてアルファ崩壊とは、放射性同位体の原子核からα粒子が飛び出す事で、異なる原子番号の原子に変化する現象である。


また飛び出したα粒子がα線であり、これは放射線の一種だ。


アルファ崩壊を起こす放射性同位体の場合、放射線であるα線を放出しながら次第に崩壊し、別の原子へと変化していく。


2.ベータ崩壊


ベータ崩壊とは放射性同位体の原子核内部で、中性子が陽子に変化する、あるいは陽子が中性子に変化する現象である。


これらの内、中性子が陽子に変化する現象をβ-(マイナス)崩壊、反対に陽子が中性子に変化する現象をβ+(プラス)崩壊と呼んでいる。


ただしβ+崩壊はレアケースであり、ベータ崩壊とは通常、β-崩壊の事を指している。


また原子核がベータ崩壊を起こす際には電子が放出される。


これがβ線であり、放射線の一種である。


ベータ崩壊の過程で、原子核の陽子数が変化するため、ベータ崩壊後の原子は異なる原子番号の原子に変化する。


ベータ崩壊には、これに加えて「電子捕獲」という崩壊形態が存在する。


電子捕獲は、陽子が中性子に変化するという現象そのものはβ+崩壊と同じである。


両者の違いは、β+崩壊が崩壊の過程で陽電子を放出するのに対して、電子捕獲では外部の電子が捕獲される事で陽子が中性子に変化する点にある。


3.ガンマ崩壊


原子核は内部に保持するエネルギーが最も低い状態が一番安定している。

これを基底(きてい)状態という。


原子核は通常の場合、この基底(きてい)状態にある。


ところがアルファ崩壊やベータ崩壊後の原子核は内部に過剰なエネルギーを保持している場合がある。


これを励起(れいき)状態という。


励起(れいき)状態の原子核は不安定な状態にあり、γ線を放出する事で、安定した基底(きてい)状態に戻ろうとする。


これがガンマ崩壊である。


γ線もまたα線やβ線と同じく、放射線の一種である。


これらの放射線の大きな違いは物質透過力にある。


α線は最も透過力が低く、薄い紙やゴム手袋で簡単に防ぐ事が可能である。


β線はα線に比べると透過力が高いが、1cm程度のプラスチック版で十分防御が可能だ。


透過力が最も高いのはγ線であり、10cmの鉛板を使っても放射線被曝を完全に防ぐ事は出来ない。


ガンマ崩壊とは現象的にはγ線の放出という形を取ったエネルギー放出に過ぎないため、ガンマ崩壊によって原子番号や核種の変化が起こる事はない。


今まで述べたような崩壊の結果、元々の原子の数が半減するまでの期間の事を「半減期」という。


例えば1000個の放射性同位体が存在した場合、その内の500個が崩壊するまでの期間が「半減期」である。


半減期は原子核の安定度を示す指標であり、半減期が短いほど、不安定な放射性同位体という事になる。


また半減期は元素により異なっており、更に同じ元素であっても核種により大きく異なる。


例えばウラン238は極めて安定度の高い放射性同位体であり、半減期はおよそ44億6800万年である。


そして原子番号92のウラン238がアルファ崩壊を起こすと、陽子と中性子が2個づつ減少するため、原子番号90のトリウム234に変化する。


ところがトリウム234は半減期が24.1日の放射性同位体であるため、しばらくするとベータ崩壊を起こし、プロトアクチニウム234へと変化する。


ウラン238に限らず、多くの放射性同位体において崩壊は一回では終わらない。

安定同位体に到達するまで、放射性崩壊が何度も繰り返される事になる。


ウラン238の場合であれば、放射性崩壊を繰り返す事で、最終的には安定同位体である鉛206に変化する。


このような放射性同位体から安定同位体に至るまでの一連の崩壊過程の事を、原子物理学では「崩壊系列」と呼んでいる。


そして崩壊系列の中でも、特に今回述べたウラン238から鉛206に至るまでの崩壊過程の事を「ウラン系列」または「ラジウム系列」と呼ぶ。


ここまで2回に渡り、原子核の構造について概要を紹介させて頂いた。


「陽子」や「中性子」「同位体」「核種」といった原子物理学における最低限の基礎用語についてイメージを掴む事で、原子爆弾の原理を理解する事が容易になる。


紹介した内容は原子物理学全体から見れば、ほんの一部のエッセンスに過ぎない。


それでも原子核が永遠不滅な存在だけではなく、時間の経過と共に変化していく存在でもある事を理解して頂けたのではないだろうか。


次回はいよいよ原子爆弾に直結する現象である、核分裂反応について話を進めていきたい。

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