【第2話】 質量保存の法則
相対性理論より前に、物理学の基本法則と考えられていたのが「質量保存の法則」である。
質量保存の法則というのは、一言で言えば「化学変化の前後で質量は変化しない」という法則だ。
具体的に説明しよう。
木が燃焼という化学反応を起こした結果、灰が残される。
燃焼前の木と燃焼後の灰を比較すると、一見、圧倒的に質量が減ったように見える。
だが実は大気中に放散された燃焼ガス等の質量を加えれば、両者の総質量は全く同じになる。
質量を分子という観点から見た場合、化学変化というのは、分子構造の変化と言い換える事が出来る。
例えば水は通常の環境に放置しておくと蒸発して水蒸気に変化するが、これは分子という観点から見れば、緩やかに結合していた水分子が分離しただけに過ぎない。
分離しただけで、分子の数は変わらないのだから、当然質量も変化しない。
反対に大気中の水蒸気が結合すると雲や霧になる。
これも質量は変わらない。
さらにこれを原子レベルで説明しよう。
水は水素原子2個と酸素原子1個が組み合わさった分子の集合体だが、水を電気分解すると、酸素と水素に変化する。
この場合も酸素原子と水素原子の数としては同じになるため、両者の質量は変わらない。
つまり質量保存の法則というのは、化学変化により分子(原子)の組み合わせや結合状態が変化しても、分子(原子)の数は変わらないのだから、質量も変化しないという事を述べているだけだ。
原子レベルで考えれば、極めて単純な理屈である。
質量保存の法則は18世紀のフランスの科学者、アントワーヌ・ラヴォアジエによって発見されたが、特殊相対性理論が発表されるまでは、自然界のありとあらゆる場合に適用される基本法則と理解されていた。
しかし特殊相対性理論が認められる事で、質量は永久不滅ではなく、エネルギーに変換される事で、質量としては存在しなくなってしまう。
つまり質量保存の法則には例外が存在する事が明らかになった。
「質量なるものの正体が、莫大なエネルギーであり、それが結晶化したものが質量である。」
この真理を世界で最初に見抜いたアインシュタインの非凡さは特筆に値する。
「歴史的発見」という言葉は良く使われるが、実際に世界の歴史を大きく変えたという意味において、これこそ本当の「歴史的発見」である。
しかし同時にこれは、あまりにも時代を先取りした発見でもあった。
特殊相対性理論により、質量には膨大なエネルギーが内在している事を人類は理解したが、分かったのは法則だけで、当時の科学技術では実際に質量からエネルギーを取り出す方法が確立されていなかった。
そのため理論物理学上の大発見ではあったが、それが直ぐに実社会に影響を与える事は無かった。
やがて質量の持つ膨大なエネルギーが兵器転用され、世界の歴史が変わっていく事になる。
そのためには、原子物理学の進歩を待たなければならない。
『第3話 原子の構造』は1月17日(金)20時に公開予定です。