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暁鶏

アンリ・ポアンカレ


数学・物理学に詳しい人間でない限り、このフランス人数学者の名前を知る者は少ない。

一般的には全く無名の人物と言っても良いだろう。


ポアンカレの専門分野は純粋数学と応用数学であり、実際にこれらの分野で業績を残しているのだが、彼が非凡なのは、自らの専門分野ではない物理学や哲学の領域において、いくつかの極めて重要な発表を行っている点にある。


一般的にはアインシュタインの特殊相対性理論により、ニュートン力学の大前提である「絶対空間」と「絶対時間」という二つの概念が否定されたと考えられているが事実は異なる。


アインシュタインがスイスで特殊相対性理論を発表する3年前の1902年、ポアンカレはその著書『科学と仮説』において「絶対空間」や「絶対時間」なるものは存在しないと明言している。


それだけではない。ポアンカレは光速が物体の運動速度の上限になる事も見抜いていた。


これはニュートン力学の主命題である「運動の三法則」の第二法則に限界が存在するという、極めて重要な発見であった。


つまりアインシュタインの特殊相対性理論は、幾つかの重要な論点において、ポアンカレによって既に予見されていたのだ。


アイザック・ニュートンが説いた「絶対空間」と「絶対時間」という舞台装置で「運動の三法則」が役者の様に働くという古典力学的世界観が万物を支配する原理ではなく、一定の条件下における限定的な法則である事を最初に喝破(かっぱ)したのは、実はポアンカレであった。


しかしこれらの業績が正当な評価を受ける事は無く、特殊相対性理論はアインシュタインの独創と思われる様になり、ポアンカレの発見は歴史の中に(うず)もれていった。


アインシュタインの独創性を否定するわけではないのだが、アインシュタインの同時代に、彼よりも早く同じ結論にたどり着いた人物が存在した事を忘れてはならない。


ポアンカレは数学者を超えた万能学者とでも言うべき存在であり、同時に現代のような高度に専門化が進んだ学界においては存在が許されない人物でもある。


だが不世出の天才であるポアンカレの(のこ)した著作が、後進の数学者や物理学者に多大な影響を与え、結果的に後世の数学・物理学の進歩に貢献(こうけん)した事、これこそが彼の成した直接的業績に匹敵する輝かしい業績である事を最後に述べておきたい。

本章で紹介したポアンカレの代表的著書『科学と仮説』は、2021年の12月に伊藤邦武による新約版が岩波文庫から上梓されています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は気分を害しておりません。むしろ作者様に謝罪を致します。 このむずかしいテーマに丁寧に調べられ、継続して挑まれたことへの敬意を記しておりませんでした。申し訳ございません。 そして、今話の内…
[良い点] 科学の先取権争いはいろいろありますね。アインシュタイン(と1905年の3つめの論文の審査官)は、ポアンカレとローレンツを論文に引用させるべきでした。ローレンツは、相対性理論の座標変換を導い…
[一言] ポアンカレ予想のアンリ・ポアンカレ。 エヴァリスト・ガロア同様、早すぎる数学者は 周りに理解されないものですね。
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