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黒剣と行く-第二跡地-  作者: 白姫
2/2

森林の先

目の前に広がるのは先の見えない一面緑一色の薄暗い森林だった。

背後には僕達がさっきまでいた洞窟の入り口と崖がそびえ立っていた。

崖はほぼ直角80度ぐらいの急斜面で高く登れそうにない。

(森林に入るのは危険だろう)

僕が崖に沿って歩こうと提案する前に少女が呟く。

「誰か呼んでる?」

そう言って少女は先の見えない霧のような緑の森林へ歩を進め、やがて少女は森林へと姿を消す。

「あ、ちょっと」

僕も少女を追いかけて森林へ入る。


少女に追い付く頃にはもう来た道すらわからなくなっていた。

「ごめんなさい。誰かに呼ばれてる感じがして…」

少女は深々と頭を下げて謝罪する。

「ここまで来たならしょうがない。まだ誰かに呼ばれてる感じはする?」

「…うん」

「ならその直感を信じて進もう」

もはや方向もわからない。

どうせでまかせに進むくらいならその直感にでも任せよう。

僕達は何かに導かれるように少女の言う方向に進むことにした。

やがて日は沈み、薄暗かった森林は一層暗さを増す。

夜に進むのは危険だ。

僕達はここで野宿することにした。

少女は横になる。

草が少女の体を受け止め、自然のベットになる。

僕も横になる。

不思議なことに虫は1匹もいなかった。

そのまま空腹と寒さを忘れる為、目を瞑る。

意識が暗闇に沈んでいく。

すると背中に柔らかい感触が伝わる。

意識が一気に覚醒し目を見開く。

背中の方に目を向けるとそこには少女がいた。

視線が合う。

僕は慌てて目を逸らし、顔が赤いのをバレないようにしながら少女に聞く。

「ど、どうかした?」

少女は淡々と答える。

「…寒い」

確かに夜の野宿は寒い。

しかし、これでは寒さとは別の事で眠れない。

少女に離れるように言おうとしたが寝息が聞こえたのでやめた。

僕はそのまま目を瞑る。

外の寒い外気にあたり冷静さを取り戻す。

(そうか、少女は寂しかったのでは?)

目が覚めたら見知らぬ土地で記憶も無く、もしこれが一人だけだったら今頃洞窟から抜け出せていなかっただろう。

僕は少女に感謝する。

少女に感謝の気持ちが伝わったのか少女の口元が少し笑った。


僕達は再び森を進む。

太陽が西に移動したところで背後から声が掛かる。

「ま…まって…」

少女の声だ。

振り返ると少女は膝に手をつき、俯いたまま肩を揺らしていた。

「大丈夫?」

「だ…大丈夫じゃ…ない…」

(仕方ない)

「背中に乗って」

僕は少女に顔が見えないように言う。

「いい…の…?」

「うん、遠慮せず乗っていいよ」

少女が遠慮気味に背中に乗る。

僕はそのまま進む。

「剣も一緒に持ってるけど大丈夫なの…?」

そういえば剣と人を一人持って歩いている。

力強そうな人ならともかく僕くらいだったら普通、既にバテてもおかしくない。

その二人の疑問に剣が答えた。

「多分、俺の能力のおかげだな」

「能力?」

「ああ、一部は封じられてるが俺には特殊な力があるんだ。そのうちの一つが力持ちにするって奴だ」

「今の僕の状態だな」

確かに脚力も腕力も通常の倍ぐらい出ている。今の体の状態ならば日本代表までは行かずとも上位にはなるだろう。

僕達は森をどんどん進んでいった。


空が夕陽で赤く染まる頃、僕達は森を抜けた。

森を抜けると目の前に立派な木造建築が姿を表した。

建物には苔も汚れも全く付着しておらず、まるで新築のようだった。高さは二階分まであった。

しかし、ベランダのようなものは付いておらず形は子供が描いた簡素な家のようだった。

僕は少女を下ろして、家の扉を探した。

扉は反対側にあった。どうやら僕達が居たのは家の裏側だったようだ。

黒色で高級感のある両開き扉は通常より大きく、僕達に威圧感を与える。

その威圧感に圧倒されるが、折角森を抜けてここまで来たのだ。

僕は臆せず扉の取っ手に手を掛ける。

そして勢い良く扉を開ける。

家の中のこもっていた空気が解き放たれる。

中は明るいが家具らしき物は何も無く、代わりに扉が一つあるのみだった。

僕達は中に入って部屋をくまなく調べる。

家の灯りは洞窟にあった鉱石を加工したものを使っているらしく、室内を照らしていた。

しかしそれと奥にある扉以外何も無く、二階も天井の高さからすると無いのだろう。

僕達はまだ調べていない奥の扉を見る。

何の変哲のない扉だが、他に何もないと異様に見える。

僕はその扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。

扉の向こうはこの部屋と打って変わって先の見えない暗闇だった。部屋の光で辛うじて下に続く階段があるのがわかる。僕は持っていた洞窟の光る鉱石を取り出し、階段を進むことにする。

部屋で日が昇るまで待っても良かったのだが、もし奥に人、もしくは通信機器などがあったらと考えると調べずにはいられなかった。

階段の闇は深く、鉱石で照らしても果てが見えなかった。

足下に注意しながら進んでいると、後ろから肩を叩かれる。少女だ。

少女は前方を指差す。

目を凝らして前方を凝視する。すると、闇の中に何かのシルエットがあるのがわかる。

四角く、大人一人が通れるほどの大きさ…扉だ。

階段を降りていく事によりそれが確信へと変わっていく。薄っすらと見える扉の取っ手、下には小さな隙間があり、そこから微かに光が漏れている。

僕は明るいであろう扉の中の部屋を目指して取っ手に手を掛け、扉を開ける。

暗闇から急に明るい光が目に入る事で視界が眩い光に包まれる。やがて目が慣れていき、部屋の風景を映し出す。

壁一面に飾られた様々な形の額に入った絵。床に敷かれた赤と金を基調とした豪華な絨毯。天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっており、部屋全体を明るく照らしていた。

そんな豪勢な空間の中央には素朴な木で出来たテーブルと椅子。そして、女の子が居た。

女の子はこちら見て呟く。

「いらっしゃい。迷子の人たち」



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