安倍晴明時空奇談 ー運命の二人ー
「こっこの着物はもしかして十二単ですか?」
「はい、その通りでございます」
「この平安の世での、貴族の姫様のお召し物ですから」
「でも私、知っているけれど着た事なんて無いですよ」
「大丈夫です。その為に私がおります」
そう言うと桃花は早速、都和香の着付けを始めた。
都和香自身、見るのも初めてと言う程の豪華で美しい十二単を着付けられながら
自分がいるこの場所が本当に現在の世界ではないと改めて実感した。
「さあ、これで仕上がりましたわ。良くお似合いです」
「もう少し御主殿様がお帰りになるまで、ここでお待ち下さいませね」
「分かりました。でもこの着物って重くて動きにくいものですね」
「初めてですもの。仕方がない事ですわ」
「コツもお教えしますし、少しずつ慣れてくると思います」
「大丈夫です。何かあれば、おっしゃって下さいませね」
「ではこれで一度失礼させて頂きますね」
そう言うと、軽く一礼し世話係の桃花はニコリと微笑んで去って行った。
都和香は何故かその時、初めてなのに心の奥から言いようのない
懐かしいと思う感情がある事に気付いた。
「私、どうして今懐かしいと思ったのかしら?」
「それにタイムスリップなんて、本当に起こると思っていなかったのに・・・」
「これから私は一体どうなるのかしら?」
そう言って、都和香は溜め息をもらした。
その後時間も進み、夕日が現れようかと言う頃になり
一台の牛車が都和香の居る屋敷の前で止まった。
中から一人の男性が降りて来ると、出迎えの者と共に屋敷の中へと入っていった。