断章
薄暗い一室に、一人の少女の姿があった。
その少女はまだ年端もいかない容貌でありながら、醸し出す雰囲気は外見を裏切るほど落ち着きと鋭さを持っている。傍らにはその少女を守護するかのように直立不動する男の姿もあった。
「ヴェオルフ。先の件に関する報告は来ておるか?」
「ここに」
ヴェオルフと呼ばれた男が、いくつかのプリントアウトされた用紙を渡す。メールで送られたものを印刷したものらしい。
少女はそれを受け取ると、周囲に光を灯らせた。自らの魔力を蛍光灯代わりとし、送られてきた情報に目を通す。
「……やはり妾の睨んだ通りじゃ。やはり奴を野放しにしたのは下策だったかの。反抗勢力と同調し、その尻尾を出すかと思って追ったのじゃがな」
「あの者の性格を考慮すれば、彼女への処分は不適当だったと具申します」
「むむっ……」
少女の眉間にしわが寄る。老婆のような落ち着きと口調を持つ少女だが、そうした挙措を見れば十分歳相応に見える。
「……まぁ、今更言っても詮無いことじゃ。ともかく、彼女らの働きに期待するべきじゃろう」
「しかし議長。貴方の力を持ってすれば、未来も見通せるのでは?」
議長と呼ばれた少女がヴェオルフへと振り返る。彼女は大人を小馬鹿にするように嘆息してみせる。
「無論、可能じゃ。だがしかし、それでは退屈なのじゃよ。妾は理の秩序のために今もこうして議長の椅子に座っておるが、知り過ぎるがゆえ妾は全く満たされぬ。少しくらい、不確定な未来というものを迎えたいものじゃ」
「失言でした議長。申し訳ありません」
ヴェオルフは深々と頭を垂れる。
「長らく議長に仕えている従者でありながら、この失態……。深く、お詫びいたします」
「よさぬかヴェオルフ。妾は他者に頭を垂れられるのは好かぬ」
「はっ」
ヴェオルフが面を上げる。そこにはパンドラの瞳を覗き込む議長の姿があった。
「ともあれ……、どんな結末を迎えるものやら」
議長の表情には、好奇心が宿っていた。