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上り坂の出口は、大蜘蛛広間の入り口のように、やっぱり左右にそっくりな岩が屹立しています。石柱の間は3mくらいでしょうか。
良く見ると、ここからまた地質が変わっており、また石灰岩に戻っています。
ふと思い立ち入口の石柱に、ある仕掛けを施しておくことにします。
一つは松明を左右の柱に括りつけて、門灯の代わりにする事。遠くからでも見えるので目印になります。
もう一つは万が一のための保険の仕掛けです。
地底湖の湖畔は起伏が激しく、小さな石筍や垂れ下がった鍾乳石でごったがえしており、ダイゴロー号での侵入は難しそうです。
一応通れそうな道があり、奥まで伸びていますが、いかにも罠ですよ~と言ってそうな雰囲気なので、絶対通りません。
湖畔はなだらかな砂浜状で、いたる所に何かしらの白骨が散乱しています。夥しい骨の数です。
水面はあくまで暗く、ほのかな流れが有る事から地下水流があるようです。
暗い水辺というのは何でこんなに怖いんでしょうね!何だか根源的な恐怖を感じます。
ダイゴロー号を石柱の通路側に停め、改めて地底湖の畔に近づいてみます。不用意に近づくと、ガバーッ!って現れた何かに噛みつかれて湖に引きずり込まれそうで怖いです。
当然すぐに逃げられる体勢です。つまりへっぴり腰。
背中にトンボザックと予備松明二本、左腰にバスタードソード、右腰にゴブの剣とゴブ斧、右ブーツにゴブナイフ、左手に松明、右手にゴブ槍という重装備です。
バスタードソードとか背中に装備したら恰好いいんですが、抜くのは出来ても仕舞うのは物凄く難しい!難しいというか無理です。
松明を持っては使えないので弓一式はダイゴロー号に置いてきてます。
盾が欲しいですよねぇ。
盾と剣のソードマンスタイルって厨二心をくすぐりますもんね!
あと、二刀流!恰好良いんですが自分の腕を切り落とす未来しか見えません。
そんな事を考えていたら、湖の畔に着きそうです。
洞窟の中は普段光が有りません。ですので、そこで暮らす動物たちは目が退化している事が多いです。
彼らはその分他の感覚が発達しており、少しの匂いや、ちょっとした振動で獲物の位置を探り出すそうです。
僕は槍を伸ばして、ちょんちょんと湖の水面を叩きました。
次の瞬間ドカーン!と巨大アリゲーターが現れ・・・・る事はなく、静けさを保っています。
どうやら僕の取り越し苦労のようですね、一旦ダイゴロー号に戻りましょう。
そう思い振り向いた時、そいつと眼が合いました。
いえ、相手には眼が無いので正確には違います。顔が合う?どうでもいいです!
相手との距離は僅か5m、それ程近いのに気づかなかったとは!
直立する肌色のサンショウウオ。
そんな外観です。体長は人間大、手には槍のような武器。それを僕に向けて大きな口を開け、太く長い舌をベロンと垂らします。
逃走経路はこの直立サンショウウオが塞いでいます。
僕は無意識に踏み込み、右手の槍を直立サンショウウオの喉元に繰り出しました。
僕にしては超上出来なレスポンス!
どうやって僕の攻撃を察知したのか判りませんが、直立サンショウウオは仰け反って槍を躱しました。
しかし僕もこの世界に来てかれこれ四カ月、いつまでももやしっ子ではありません。踏み込んだ体をそのままに体当たりです!
これは避けられなかったようで、直立サンショウウオは後ろに倒れました。短い石筍の上に。
声帯も無いのでしょう、石筍に背中を貫かれても声を上げません。無言で悶絶する姿が余計に不気味です。
僕も一々観察していた訳ではありません。基本行動に移ってます。
即ち
びっくりしたら即逃げる!
何かあったら超逃げる!
怪しかったらもう逃げる!
立ち向かうとか出方を伺うとか、ややこしい事は考えません!