森の花嫁②
霊苺と魔人シンタロー様のおかげで、怪我はすっかり良くなっちゃった。
おうちでブラブラしてると落ち着かないから、家事をする事にした。だってお嫁さんだからね。
シンタロー様のおうちは建てたばかりみたいで、なーんにも無い。でも、壁の色は悪くない。綺麗なアイボリーグリーン、シンタロー様みたいな優しい色。
おうちは、断崖絶壁の上に建っていて、外に出たら足が竦んだ。今は慣れたけど。
ただ、あんな頼りない梯子で登り降りは無理!
シンタロー様が魔獣革で服を作ってくれたけど、正直言って着心地が悪い。仕立て直さなきゃ。
この魔人さんは文明レベルが低いのか、針と糸も持ってない。
鞘綿豆を集めてるくせに、ほったらかしにしてもったいない。私が何とかしてあげないと、このままじゃシンタロー様は冬が越せないよ。毛皮だけで越せる程ここの冬は優しくない。
ちゃんと保温性と吸湿性のあるコットンの服が無いと動きにくいし、汗を吸わないからすぐに体温を持っていかれる。
雪綿鹿の毛皮を獲って来たのは偉かった!毛だけを刈り取って毛糸にすれば、物凄く軽くて肌触りの良い、おまけにとっても暖かいセーターが編める!本当は春に毛刈りするのがいいけど、無いより全然いい!でかした!もっと獲って来て!
山藤の皮と岩樫の実で煮込めば、シンタロー様に似合う綺麗なグリーンに染まるから、集めなくっちゃ!
でも、シンタロー様の肌着と股引が先。雪綿鹿の毛糸は贅沢品だから後回し。
だから私はシンタロー様にお願いして糸紡ぎの道具と機織機を作ってもらった。仕組みは私が知ってたし、修道院の機織機もしょっちゅう壊れて自分で直してたからバッチリ大丈夫。
魔人さんだから出来るよね?自分でも何を根拠にって思うけど・・・あ、そうだ、シンタロー様は文明レベルが低くて頭悪かったんだ。大丈夫かな?
完成するまで随分時間が掛かったけど、ロクな道具も無いのによく作ったよね。しかも完成品は修道院の物より良く出来てる。ペダルで踏み込めば勝手に糸車は回るし、手で操作しなくてもやっぱりペダルを踏んだら縦糸が入れ替わる!しかも織れた布は勝手に巻き取られて行く!
その分機械は随分大きくなったけど、両手が自由だから早さが倍以上違う!
織るのが楽しくて楽しくてしょうがない!
シンタロー様は頭は悪いかも知れないけどすっごく器用。石臼も一角獣魔人の角であっという間に作って、水を引いてる滝で水車も作ってた。仕事がどんどん楽ちんになってく。
冬に向けて風邪ひきの薬とか、あかぎれの傷薬とか体を温める香辛料とか、その他色んなものが無いから、私もシンタロー様にくっついて森に出かける。
一日中おうちの中に居たらさすがに飽きちゃうしね。
そしたらあの嫌らしいゴブリンが居た。あいつらは弱いらしいけど、数が多いから厄介なんだって。
ここに来る途中に戦った記憶が蘇って来て、思わずシンタロー様に抱き着いたらさすが魔人さん、アッと言う間にゴブリンを蹴散らした。
次から出かけるのが少し怖くなったけど、シンタロー様だけに任せてたらロクな素材が集まんないからね。一角獣魔人の高価な牙が有れば滅多な魔物や狂暴な動物は寄って来ないから、ダメ元でせがんだらあっさり首飾りにしてくれた。首に掛けてくれた時ドキドキした。
私の宝物にします。
すいません、この娘ったらちょっと思い込みが激しくて、すこーし残念な娘みたいです・・・