森の花嫁①
魔人さんの名前はシンタロー様といいます。正直に言うと、変な名前だと思う。
いつも魔獣革の鎧のような服を着て、一日中働いてる。
修道院に居た頃は、灯火の燃料がもったいなかったから、私達は日が暮れたらそれで終わりだったけど、この魔人シンタロー様は朝早くから夜中まで何かやってる。
最初の頃は怖くて覗けなかったけど、この前こっそり見てみたら、一生懸命ロウソク作ってた。
ロウソク作ってる魔人って、っておかしく思ったけど、魔人だって明かりはいるよね。
私は食べられるまでは魔人さんのお嫁さんだし、ロウソクなら座ったままで出来る。だから手伝おうと思って近寄ったら、黙ってお姫様抱っこされてベッドに戻された。ちょっとドキドキした。それに、貸して貰った服の下はスッポンポンだから恥ずかしい。
最近は少し歩く練習をしてる。まだ足の裏は少し・・・より、もうちょっと痛いけど、さすがに毎回シンタロー様にトイレまで連れってって貰うのは乙女としてどうかと思うし。
このトイレは、いつも便器の内側に水が流れてて、出したものと一緒に流してくれる優れもの。
お尻を拭くのも村の修道院だと、海綿のスポンジで拭いたり、手水で洗ったりするけど、魔人流は三つ葉楓の柔らかい葉脈繊維を重ねた物で使い捨て。衛生的!トイレも綺麗で匂わない!
最初の頃はシンタロー様は私の名前をなかなか憶えてくれなかった。ネイって言ってるのに、何故かネーチャンて発音する。私の名前如きを覚える気なんか無いのかな?ってちょっと寂しく思ったけど、今はちゃんとネイって呼んでくれてるから許す。それに、いくら森の魔人でも、人間ほど頭が良くないのかもしれない。
でもこの前びっくりした。だって、一角獣魔人の角と牙と爪が無造作に作業部屋のテーブルに置いてあったんだもの。
着てる服も子供を攫って食べる人狩ヤンマの尻尾の革だし、兜猿の兜で料理してる。
頭は悪いけどやっぱりすごい魔人なんだと思う。
その魔人さんが靴を作ってくれた。
怪我してる足でも履ける、底の物凄い柔らかいゼリーみたいな素材のサンダル。
足の型を取られた時、いよいよ足から食べられる!って思ったけど、足をあてた木の皮に印をつけだして、何をしているのか分からなかった。
次の日にはサンダルが出来てて、三日後にはシンタロー様とお揃いのブーツが出来てた!
早くちゃんと歩けるようになりたいな!
シンタロー様の料理はおいしい。
材料は森の中の物だけでレパートリーには乏しいけど、栄養と量はたっぷりある。
このまま食べれば修道院に居た頃より確実にプニプニになる。プニプニになったらシンタロー様に食べられちゃうかな。まあ、いっか、それが目的で来たんだし。
食欲に負けたんじゃないからね!
でも森芋のマッシュはいつもホカホカで、修道院に居た頃より贅沢にお肉もお魚もたっぷり毎回食べてる。しかも、幻の果実、霊苺のデザート付き!
どんな病もたちどころに癒すって言われてる神秘の霊薬!凄い!そしておいしい!
傷薬では無いけど、怪我も早く治る効果もある!
さすが魔人!おみそれしました!
食事のあとは必ず桶に温かいお湯と手拭いもくれる。
森の花嫁、当たりだった!
今後ネイ視点のお話は「森の花嫁」のサブタイ振ります。