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え?ウソやん、ホンモン?
何かのドッキリ?
ってそんな場合じゃないから!死にそうだから!
慌ててボロ雑巾のように崩れ落ちている少女を抱えてその場を離れます。血の匂いで他の魔獣や動物が来たら厄介ですから。
少女の体の細さ、軽さにギョッとします。装備を拾い集めて少女を毛皮寝袋で包み、荷物を抱えて全速力でこの場を離脱!
少女はかなり衰弱しているようです。
比較的安全と思われる場所に少女を寝かせ、とにかく脱水症状を避ける為に水を飲ませます。
気を失いながらも体は生に忠実なようで、少しづつですが水を飲んでくれました。
コーヒーのスチール缶で作った小さな鍋で、ブロック状の保存食と水を合わせて煮込み、流動食的な物を食べさせます。
少しづつ、少しづつ、気管に入らないように時間をかけて食べさせ、胃の機能がパンクしないくらいで止めます。
夜の移動は流石に危ないので休憩しますが、背負子を作り、陽が昇ると同時に移動を続けました。
僕自身荷物も多く、軽いとは言ってもさすがに人一人分の重さを担いでは僕もへたばり、その都度こまめに休憩をとっては少女に水と流動食を与えます。
何度か少女は目を覚まし、何かうわ言のような言葉をつぶやいていましたが、言葉が違うのか、言葉になっていないのか、僕には聞き取れませんでした。
必死の思いで拠点に帰り着き、すぐにお湯を沸かして少女を洗う事にしました。
裸に剥くのは正直罪悪感が有りましたが、清潔にしておかないと、感染症や、炎症を起こします。
帰還中に応急で傷を洗って止血等の処置をしましたが、こればかりは拠点でもろくな処置はできません。せいぜいバスのヘッドレストを洗った布で傷口を縛るくらいです。
ボロボロの革の服を脱がせ、汚れ切った下着も剥ぎ取り、何度もお湯をかけて石鹸で擦って綺麗にしました。
白に近い灰色の長い髪の毛は、泥や葉っぱ等で絡まり、固まり、根気よくお湯で流して梳かしていきます。
青白い肌に骨の浮き出た痩せた肢体は痛々しく、その上傷だらけとあっては劣情を催す余地はありません。固く握りしめたままの右手は人差し指が折れています。こんな体でよく頑張ったと涙が出ます。
ただただ回復を願い、無残に事切れてしまう事を恐怖する日が続きました。
少女の枕頭に、短剣を置いておきます。意識が戻っても丸腰だと怖いだろうから。
この世界の人は強靭な体を持っているのか、この少女が特別丈夫なのかは判りませんが、幸いな事に回復してきたようです。
トイレも介助すれば自分で行けるようになり、食事も通常の物が食べられるようになりました。一安心ですね!
ガッサガサの肌やボッソボソの髪の毛の艶も良くなり、死んだ魚のような眼も少しづつ光を取り戻してきて、綺麗な琥珀色です。少しそばかすが散った青白いほっぺにも血色が戻ってます。
良かった・・・うう、よ、良かった!ウン、助かってホント良かった!
これからどうなるか、どうしたいか解らないけど、とにかく健康を取り戻そう。
「僕はシンタロー!よろしくね!」