魔獣の森の生贄①
これから死ぬ人間に修道服は必要ありませんね、すぐに脱いでこれに着替えなさい。
院長先生はそう言って、私の足元にゴワゴワのワンピースを投げ出した。
確かにこれから私は死ぬ・・・
森の花嫁、魔獣の森の生贄・・・
私は幾らだったんだろう、幾らで売れたかな?院長先生私でパンを焼く小麦は買えますか?
訊こうと思ったのに先生は目も合わさずに行ってしまった。
ひょっとしたら私では小麦は買えなかったのかな?
もしそうなら悪い事をしてしまった。もっと高く売れた子がいたかも知れないのに、私が行くって言っちゃったから・・・
アデリーもゼニスも私より美人だし、花嫁にするにはちょっと勿体ないなと思って私が立候補した。
私は不細工だし、陰気で無口だから居なくなっても誰も何とも思わないから。私がギリギリ十八歳で良かった。
判ってますよ、先生。
修道服よりこのゴワゴワの革のドレスはとても丈夫に出来てる。
スカートのポケットには干し肉が一杯詰まってる。
先生が一針一針縫ってくれたの知ってます。時間がなかったからズボンまでは縫えなくって、仕方なくワンピースになったんですよね。
でもごめんなさい、干し肉はジェインにあげちゃいました。あの子はいつもお腹をすかせてるから。
ハーディン、鶏小屋は毎日掃除してね。レベナ、糸車にちゃんと油は差しておいてね、すぐギーギー音がするから。クレス、機織りも刺繍も教えられなくてごめんね。
皆も先生も早く私の事は忘れてね。この先生きていくのは色々辛いだろうけど、負けちゃだめだよ。
魔獣の森に連れて行ってくれる冒険者のおじさんが、何故か泣きながら小さなナイフをくれた。
生きながら魔獣に食べられそうになったらこれで自分で死になさいって。
ナイフをくれたのに、何度も私に謝ってた。
でも、おじさん、女神様は自分から死んじゃいけないって教えてるの。
花嫁になるのを自分から志願した私が言うのも変だけど、これは緊急避難だからね。私が死んでも他の人が生きる。
でも、このナイフは有難く頂きます。森の魔獣に一泡吹かせちゃいます。
私を乗せた老馬は森に怯えて、狂ったように一日獣道を走り続けて、バッタリ倒れてそのまま死んじゃいました。可哀そうだったけど、私ではどうにもしてあげられない。
夜は樹に登って眠った。寒かったけど、冬の修道院ほどじゃなかった。
朝露や、野草を食べて何日かしのいだけど、魔獣のお迎えっていつ来るの?
二匹のゴブリンに襲われたけど、戦ってやった!
私もボロボロになっちゃったけど、ゴブリン倒してやった!私は強い!私は森の魔獣の花嫁なんだから、あんた達になんか、食べられてやらないんだから。
でもせっかく貰ったナイフが欠けちゃった。落っことしそうになったから手に縛っちゃお。
それから色々な動物やモンスターに襲われた。全部逃げてやった。
サンダルはすぐ破れて脱げちゃった。
逃げる時に随分森の奥深くに逃げて来た。このまま行ったら女神様の森に行けるかな?
それは無理か、だってこんなに沢山の狼に囲まれちゃった。もうお腹も減って動けないし、私頑張ったよね?
遠くで誰かが叫んだのが聞こえた。ひょっとして森の魔獣ですか?
今晩は、魔獣さん。
あなたの花嫁になりに来ました・・・私はネイ・・・と言い・・ま・・・す・・・・・