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え!
人?
やだ、怖い!
んなこと言うてる場合かーーーーい!
あまりの事態の意外さに、一瞬フリーズしてしまいましたが、木立ちの中を逃げ回る灰色の人影は絶体絶命の状態です。
あかんやん!人やん、人やん、人、人やん、人!人おんねん!人間やねん!あかんわこんなん不意討やわ!あれはどう見てもホモサピエンス!おってんやーーーーー!この世界にも人間おってんやーーーー!
頭の中は人、人、人、人、パニック寸前。これはある意味デスペア以上の衝撃です!!
一旦落ち着きましょう、いや、そんな場合じゃなかった。
見たところ、煤けてボロボロな貫頭衣風の服を着て、灰色の長い髪をザンバラに振り乱し、右手に握った短いナイフみたいな物を振り回しています。
囲んでいるのは、狼っぽい錆色の集団です。
あかん・・・手が震えます。
それでも僕は弓を引き絞り、狼の注意を僕に向ける為、大声を上げます。
「エ、エイドリアァァ~~~ン・・・・」
自分でも意味が判りません。声が震えたのは見逃して下さい。語尾が消えていくのはご愛敬。声が裏返ったのはむしろ上出来です。
デスペアの時のように、やけっぱちの覚悟が無いんですから!
カンッ!
ギャウン!
カンッ!
ゴウ!
カンッ!
ギャン!
それでも僕も成長しました。距離30mなら狼くらいの的は外しっこ有りません。動いて無ければですけど。
致命傷を与えたのは二匹ですが、後の一匹も後ろ脚を木の根に縫い付けられて大暴れしています。
残り五匹。
内、三匹がこっちに向かって来ます。速い!
咄嗟にトンボの弓を捨ててゴブ槍を繰り出し、出会い頭に先頭の狼の口を狙ってドン!
喉の奥深くに刺さり狼は即死、しかし深く刺さり過ぎてゴブ槍がもぎ取られました。
右腰に差したゴブ斧を引っ掴んでゴン!
空振り!
ぶん投げてドカーン!
狼の首元に飛び込んだゴブ斧は、見事胸と肩を切り裂きます。
もう一匹の噛みつきは避け切れません、左腕で喉をガードします。
ただし、この左腕はラビック鱗とスライム樹脂の複合装甲が入っています。狼如きに噛み破られはしません!
多分!
噛みつきながら暴れる狼に慌てず騒がずゴブの剣をザン!
喉を切り裂きさようなら!
残りの二匹は逃げて行きました。後ろ脚を射抜いた狼も、足を引きずりながら逃げたようでした。
肩を切り裂いた狼は横たわって、喉から喘鳴を響かせています。どうやら気管も傷つけていたようで、虫の息です。
ゴブ斧を拾い、一回瞑目してからドン!お疲れした!
僕は倒れている灰色の人に駆け寄りました。どうやら気を失っているようです。
幸いこの狼戦では負傷しなかったようですが、全身泥塗れの汚れ塗れ、傷だらけのボロボロです。
着ている服は貫頭衣かと思ったら分厚い革のワンピースで、足は素足、腕も片袖は肩から破けてなく、怪我をしていないパーツが無いくらいの有様です。
足の爪もいくつか剥げ、左腕に大きな裂傷が有ります。足の裏もよくこれで歩けたもんだと驚く程の裂傷を負っています。
右手には切先が欠け、刃もボロボロに毀れた小さなナイフを握りしめ、落とさないようにする為か、蔦でグルグル巻きにしてあります。おそらく自分でやったんでしょう。
生きる為の物凄い執念を感じます。
そして・・・
狼から救った灰色の人物は、うら若い女性でしたとさ。
まさかのヒロイン登場。
当初出る予定ではありませんでした。
ヒロイン、自分から出てきました・・・