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僕は必死に右手でドライバーさんの体を支え、左手でシートベルトを外そうとしています。
「手を貸すのが無理なら救急電話をお願いします!」
ひょっとして足とかぶつけて折れてる人かもしれません。いきなり手伝えって確かに僕が不躾でした。
「あ~?何でてめぇにメーレーされなきゃなんねーんだよ。誰だてめぇ?!」
はい、あかんタイプ再確定。
あ、シートベルト取れた。
小柄なドライバーさんをよっこいしょーと通路に引き上げ、恐る恐る鼻に手をかざします。
「良かった、生きてる・・・」
僕はほっとしてしゃがみこんだまま額の汗を拭います。
「てめぇは誰だって言ってんだよゴルァ!!」
いつの間にかホスト兄さんがすぐそばまで来ています。連れのおねーさんほっといて大丈夫なんでしょうか。
「僕も乗客の一人です。お連れの方は大丈夫ですか?」
「あぁ?知るかよ。てか何でてめぇヨーコの事気にしちゃってくれてんの?ヨケーなお世話だっつーの!てめぇそれともヨーコに気があんのか?」
もう、まったく話が通じません。僕は諦めて自分の携帯を出します。
圏外です。GPSもつながりません。事故の衝撃で壊れたのかな?
「あなたの携帯繋がります?」
ホスト兄さんの方を見上げます。
「だから知るかってーの!」
とか言いながらも尻ポッケから携帯を出して操作してます。ここら辺はやっぱり現代っ子ですね。携帯がつながらないと不安になるようです。
結局、あれからドライバーさん以外全員無事に目を覚ましました。と言っても五分くらいですけど。そして全員の携帯が圏外というのも発覚。ま、そりゃそうですよね、衛星電話ならともかく市販の携帯なんてどれも似たり寄ったりでしょうし。
「誰かこの状況を説明しろっ!」
スギ・・・おじさんが青筋立てて怒ってます。
「ちょっとタクヤ~、ここ何処よー?温泉行くんじゃなかったの~?あー、マジ首いたいんですけどぉ!」
赤パンねーさんもイライラしています。
「俺が知るかよっ!」
ホスト兄さん改め何も知らない兄さんもブレません。
「何が起こったの?おうち帰りたい!」
女の子たちは不安そうです。
「この場合、拙者達には保険金や賠償金はバス会社から支払われるのであろうか?」
お侍さんの学生さんたちは現実的と言うんでしょうか。
ですが、事故現場というのは案外こんなものかも知れません。みんなパニクっているのです。
「ここ、何処?」
ぽつりと女の子さんの口から言葉が漏れます。そう言えば、窓の外さえ見ていません。余りの事に視線は下ばかり向いてました。これはいけません、顔は上げていきましょう。
改めて窓の外を見てみます。明らかに高速道路ではありません。深い森の中にいるようです。まあ、実際には深いかどうか知りませんけど。
「高速道路から落ちたのでござろうか」
「馬鹿な箏を言うな。高速から落ちて無事な訳が無いだろう!まったく最近の若いもんは常識が無い」
「んだとーてめぇ、ジジイのくせになぁに威張ってくれちゃってんの?あぁ?誰だてめぇ」
「俺は写真家の笹山だ。知らんのか?」
へぇ、おじさん実は結構有名な方です。僕でも名前くらいは知ってますが、何にも知らないお兄さんはやっぱり知らないようです。
「知るカボケェ!」
もうカオスです。