~病んだ英雄たちが往く腐った世界の迷える住人②~
そうですか・・・
あなた方も大変ですわね・・・
ええ、勿論信仰は有りますよ。今では細々と続いているだけですけど。
一頃はそれなりに権威も有りました。それに群がる亡者達に食い荒らされてなければ、もう少しましなベッドもご用意できたかも知れませんわね。
当修道院は孤児院を兼ねております。何かと物要りでございますので、お泊りになられるのでしたらお布施をお願いいたします。
はい、結構です。
まあ、孤児院と申しましても実際の所奴隷商と変わりはございませんわ。
身寄りのない子供を引き取り、育て、そのお金を得るために成長した子供たちを売る・・・
罰当たりは重々承知でございますとも。
まあ、では他にどうしろと?誰がこの子たちにパンを与えてくれるのです?
施しなどここでは考えられません。
私共も謂わば信仰を建前にした奴隷業者に過ぎません。
それでも・・・それでもこの子達にパンを与えてやれるのです。
今、この子たちを一人でも見放すと、三日以内に死体が一つ増えますわ。いえ、一つならいい方です。間違えば二つ三つと増えるでしょうね。
女神様の御心に沿わぬのは承知しておりますとも。
経典のどこにも子供を売って糧を得よとは書かれておりませんもの。
もっとも、それがいけないとも書かれておりませんけどね。
常識?
何をおっしゃるのかしら、弱肉強食が世の習い、それこそが常識でございましょ?
ええ、ここで求道する者たちも例外ではありません。良い値がつけば私も買われて行きます。
先日も一人修道尼が買われて行きました。まあ、あの娘は魔獣の森の生贄として買われたので助からないでしょうけど・・・
こういう事はよくあるんですの。
いえ、自分からですわ。
よく居るんですよ、生きる気力を失くした者がね。陰気で無口でしたが手先が器用で良く働く娘でしたけど・・・
解っております。この世は良い人間程早く死にます。大方あの娘も誰かの身代わりを買って出たんでしょう。ああいう人間はこれから先生き残れませんものね。
では、あの娘の代わりに誰かを差し出せと?
まあ、あの娘が手を挙げなければそうしたでしょうけど、それで何が変わるのです? 誰かが死に、別の誰かが生き延びる・・・役どころが変わるだけで人が死ぬのに変わりは有りません。
処女生贄は十八歳までの乙女が条件。
老女はどう考えても代わりにはなれません・・・・
私も早く死のう、そうすれば一人分のパンが子供たちに与えられる。毎日そう考えます。
でもそうしたら誰がこの仕事を行うというのですか?
あなた方が代わって下さるの?
人の命を選別するという呪われた仕事を・・・