~病んだ英雄たちが往く腐った世界の迷える住人①~
はんっ!救世の英雄様だって?
お前らそんな冴えねぇ面してよくそんな事言えんな。
まあ、そいつぁご苦労様ってもんだ。
こんないいご陽気に、頭でもおかしいんじゃねぇか?ああ、いいご陽気だから頭が温もっちまったんだな。お可哀そうに。
女神様?勇気の輝き?あんたらその歳でそんな事言ってて恥ずかしくねぇか?揃いも揃ってどうかしてんぜ・・・
うっせぇな、まだ何かあんのかよ、こちとら真面目な一村人なんだ。早いとこ畑仕事をやっつけちまわねぇと秋の収穫がおぼつかねぇんだよ。
ここじゃぁ隣近所の助け合いなんて有りえねぇ、冬になりゃぁ村同士で奪い合いよ。
そう言やぁ、去年のあれは傑作だったな。丁度今頃の話さ。
魔獣の森に毎年の処女生贄を届ける帰りによ、俺達二人は運良く生き残ったのよ。生き残ったもうひとりのクソ虫野郎、ヴェリスが腐肉漁蟲の幼虫を持ってきやがって、それをこっそり一つ向こうの村に放してやったのよ。
見ものだったぜぇ、子供を取り返しに来た親蟲が、他の魔獣も引き連れてのパレードよっ!
そりゃもう村中お祭り騒ぎなんてもんじゃねぇさ。
調子に乗ったクソ虫のヴェリスが、あっちこっちに火ぃ点けまくってよ、俺ぁ腹抱えて大笑いよ!
そのあと村の奴らに見つかって、クソ虫は袋叩きの晒し首ってデザート付きのフルコース、最高だぜ。
三年前にクソ虫ヴェリスの娘がその村のせいで処女生贄にされたのよ。お世辞にも器量のいい娘じゃなかったが、うちの村の順番はまだ先だったんだぜ。
それを横紙破りにあの村の連中がやって来て、クソ虫のクソ娘を攫って行っちまった。
おかげさんで面白い物を見せて頂きました!
英雄様ってんなら何とかして見せな!
魔獣の森の一角獣魔人でも倒せるんだろ?チョロいもんだろ?英雄さんならよ!
もうじき今年の生贄祭がある。
処女生贄の”送り”は公平を期して、違う村の人間がやる事になってる。今年は西の村が”送り”で処女生贄はその向こう隣の猿の娘か?ああ、違ったな、金に物を言わせて修道院の尼さん買って来たとか言ってたっけか?どっちでもいいけどよ。
いつからこんなになっちまったかだって?
このクソ溜め世界は最初っからクソ溜めさ。
俺達ゃ皆前世って奴でなんかやらかしたんだろうぜ、じゃなきゃこんなクソ世界で足掻いちゃいねぇよ。いや、ひょっとしたらここがその地獄そのままなのかもな。
だからよ、英雄様よ、チャチャッとこんな世界は滅ぼしてくれや・・・
俺も向こうで早く娘に会いてぇよ・・・