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戦いが始まってどれだけの時間が経過したのでしょうか。
グローブの下に腕時計をつけていますが、裾をまくってまで確認する気にはなれません。
重要なのは時間の経過よりも生き残る事。デスペアを倒す事。
僕は最後の決戦の地へデスペアを誘導します。
ここで倒し切らなければ万策尽きた僕に残された手段は、肉弾での玉砕戦となります。勝てる見込みは高いとは思えません。
良くて相打ち、それも僕を殺して喰らったあと傷が化膿して死に至る。という感じです。
あいつは転がるようにして、それでもなお圧倒的な迫力で僕に追いすがり、僕を襲う執念はいささかも衰えを見せません。
最後の罠に辿り着きました。
ここまで全力疾走を続けてきた僕の体力はほぼ限界、ギリギリの綱渡りを続け精神的にも限界・・・
誘い込んだのは絶壁に突き出た岬のような袋小路。
かねてより用意していたロープをトンボ革の装備ベルトに結びつけます。
これは保険です。
叶うなら、これを使う事が有りませんように・・・
岬の広さは幅5m、奥行き12m程でしょうか、その先は数十メートルの断崖。火サスも真っ青な絵に描いたような絶壁です。
僕はそのほぼ中央で止まりデスペアと正対します。
腰からゴブ斧を引き抜き、やけくその肉弾戦の構え・・・
このフェイクがどこまで通用するでしょうか。目論見通り、理性を失くすほど逆上していてくれれば僕に軍配が上がるはず。
デスペアは、こちらの思惑には乗ってくれないようですね。
今や全身ボロボロながら輓馬程の大きさになり、人と獣を合わせたような姿でこちらを探るように伺っています。
予定ではこのままダッシュで僕に向かって来てもらうはずだったのですが・・・
予定が狂い、僕は慌てまくります。なりふり構わず石を拾い上げて投げつけます。ここにも投げ槍を用意しておくんだったと後悔してもしきれません。
デスペアは最後の最後で慎重になり、僕を絶望に叩き込みます。
罠を確かめるようにゆっくりと歩みを確かめるようにこちらに向かってきます。
10m・・・・・9m・・・・・・・・・・・
8m・・・・・・・7m・・・・・・・・・・・
やっと安心出来たのか、あいつが初めてニヤリと眼だけで笑いました。
・・・・・6mデスペアの間合い。
デスペアの下半身に力がこもるのが見えます。残りの距離を一気に詰めて僕に襲いかかる気でしょう。
どうやら最悪の事態は避けられそうです。
このままジワジワと来られていたら、本気で終わっていました。
さあ来い、掛かって来い!跳んで来い!
迎え撃つ姿勢で僕も腰を落とし、両手を広げて待ち構え・・・・
跳んで来る!
僕は右足を踏み出し、全体重を込めてそれを踏みしめ・・・・・・
地面から飛び出したのは長さ2mを超える長大な薙刀。
僕は地中浅くに埋めていたグレイブの石突を踏みつけ、梃子の原理で穂先を上向け・・・