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余程ピンポイントで傷を狙わないと、デスペアに槍は通じないでしょう。少なくとも僕の力ではあの筋肉の鎧を貫通させるのは難しそうです。そしてそんなピンポイントで狙える技術は僕にはありません。
投げ槍も裂傷は作りますが、あいつにとってはかすり傷程度でしょう。恐ろしく丈夫です。
呻いているデスペアに僕は背後からの丸太ぶん殴り作戦です。しかし、人力ではダメージが通っている気がしません。体重差もありますが、根本的に骨格、肉の付き方が違います。
セントバーナードに吠え掛かるチワワの気分です。
そしてここまでダメージを負わせても、それでもまだ僕は勝てる気がしません。
デスペアを誘導します。
もう一回だけ少しの時間を稼がなければなりません。その為の落とし穴も作っています。
嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ嵌れ・・・嵌った!
僕の願いが通じました!腰までの落とし穴ですが、例によって念入りにスパイクが仕掛けてあり、さらに別の細工もしてあります。その中暖かいでしょ?
はい、そんなあなたにプレゼント。
すぐそばの地面から擬装していた毛皮をめくります。毛皮の下の穴にはモンキーボアの鍋が入っています。そしてその中には湯煎されたスライム水風船が三つ・・・
明け方に温石---火で温めた石です---をこさえてスライム水風船を入れた鍋と、そこの落とし穴の物も温めておいたのです。
僕は拳大の温かいスライム水風船を全部デスペアに投げつけ、ポケットから百円ライターを出し、用意していた紙切れに火をつけてこれもデスペアに投げました。
GYUOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!
今までで一番凄まじい吠え声です・・・
これが僕の必殺兵器・・・バスの燃料の軽油です。少量ですが、バスの燃料タンクから抜いてきていたのです。
落とし穴の中にも軽油と温石を入れてありますからそれにも引火しています。
ガソリンと違って軽油は引火点が高いのが特徴です。具体的に何度かって覚えて無いですけど、確か体温より高くて日本茶の美味しい温度より低かったと覚えています。
ガソリンなら火炎瓶的に常温で使えたのですが、軽油は一旦温める必要があるのです。普通に火を点けてもジンワリとは燃えてくれますけど、破壊的に燃えてもらうにはやっぱり温めるのが一番。霧状ならそのまま引火しますけど、噴霧器なんて無いですからね。
獣相手なら毛皮に燃え移って大惨事が狙えますが、デスペアではトーガを脱がれたりしたら効果は微妙かなって思ってました。
間違いでした。えげつなく燃えてます。
もう凄い勢いで穴から飛び出し、狂ったように暴れまわり、腐葉土の上をゴロゴロと転がって消火しようとしています。
デスペアの運が良いのか、残念ながら一昨日まで降った雨で地面はまだ湿っています。かかった軽油も少なかったのか火はすぐに消えてしまいました。
必殺とはいかなかったですが、深刻なダメージは与えられたようです!
頭髪は燃え、皮膚は著しく焼け爛れ、両耳は炭化しています。トーガの上半身部分は自分で引き千切り、腰布一枚のような姿です。
では次行ってみよう!
どっちが悪役か分かりません・・・