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突然車体が激しくシェイクします。立ち上がりかけていた僕は燕の様に軽やかに身をひるがえせるはずも無く、荷物棚とシートの間を往復します。えーと二回位。
物凄い衝撃と破砕音と共にバスが止まりました。
シートの下に挟まっていた僕は、揺れが収まったので恐る恐る立ち上がります。床がだいぶ斜めになっていて、何かに掴まってないと危なそうです。奥のギャルねーさんはミニスカートから真っ赤なパンツ丸出しで逆さになってます。連れのお兄さんや学生さんもひっくり返ってます。イヌガミケという言葉が頭をかすめましたが僕のせいではありません!
前を見ればスギ屋カレー牛丼特盛を頭から被ったおじさんが通路でのびており、四人組の女の子たちも重なり合うように一まとめになってぴくりとも動きません。
バスのフロントガラスは真っ白にひび割れ、どうやらエンジンは止まっているようです。一番危うい体勢だった僕が一番無事なのは何とも皮肉なものです。
こうしてはおれません。衝撃が大きかったのは前の方です。後ろはとりあえず後回しです、優先順位はグリーン。僕はフラフラとシートに縋りながら前方へ移動します。
「大丈夫ですか?」
スギ屋カレー牛丼特盛のお持ち帰りパックを頭からどけてあげ、おじさんに声を掛けます。こういう時下手に体とか頭とかを動かしてはいけませんよ、頭を強く打っていたら悪化します。
「う、うう・・・」
どうやらおじさんは生きているようです。よし、おじさんイエロー。
続いて女の子たちです。
前方の仕切りに押し付けられるように固まっているのを慎重に一人づつに分解します。皆さんカレーソースで所々真っ黄色です。シートを倒し、一人一人の無事を確認して寝かせます。どうやら気を失っているだけのような気もしますが、医者でもない僕には分りませんがとりあえずイエロー。
え?おじさんとの扱いが違う?
当たり前でしょ?説明いります?
続いてドライバーさん。・・・なんと言う事でしょう、ヤバいです。レッドです!
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ろうとして、斜めになった床で転びそうになります。というか転びました。
とにかく立ち上がり、運転席のドライバーさんの様子を確認します。がっくりと頭はうなだれ、帽子は吹っ飛んでます。サイドウィンドウに頭をぶつけたようで、蜘蛛の巣状に罅の入った窓ガラスには血が付き、ドライバーさんの頭からも流れてます。当然意識は有りません。
「どうなってんだゴルァッ!」
後部座席の方から怒声が聞こえます。ホスト兄さんぽいです。
「すみません!ちょっと手を貸して貰っていいですか、重傷者が居ます!」
僕は後部座席に叫びます。
「ああ!?知るかボケッ!てか何なんだよ。おい運転手っ!説明しろや!訴えんぞコラッ!!」
はい、あかんタイプ確定。