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しばらく僕たちは見つめあっていました。
恋人同士なら甘い時間なのかもしれません。
実態は蛇に睨まれたカエルです。
密やかに殺気を紡ぎながら、まるで王者のように悠々と森に君臨する圧倒的強者。
薄暗い森の淵に佇み、煙る川面に屹立する様はまるで絶望を体現する死神。
あいつは落ち着いた素振りで棍棒を軽々と担ぎ上げ、静かに森に引き返して行きました。
捕食者の獣性と、狩人の知性の宿った眼光で僕を射すくめてから・・・
どうやって拠点に帰り着いたのか、記憶に有りません。
蹌踉と彷徨い、気が付けば拠点のテントの前で僕はゴブの剣を研いでました。
おかしいですね、どうしてこんな事をしているのでしょうか。
あいつは絶望的な存在です。まともにやり合って僕が勝てる見込みは万に一つも有りません。
およそ人の身で敵う存在ではないでしょう。
それでも・・・
僕の体は戦う気のようです。
自分らしくない体の反応に思わず笑ってしまいました。
前の世界ではとっくの昔に心が折れていたかもしれません。
絶望に塗りつぶされていた情けない心とは裏腹に、肉体に宿る生存本能は生き残る道を模索しているようです。
僕は自分で思っているより弱虫じゃないのかも知れません。
そうか、そうですよね、何もせずに食われてやる訳にはいきませんよね!
どうせやるなら勝たなきゃ損です。いや、損も何も死んでしまうんですけどね。
しかし、僕の体よ、いくらなんでもゴブの剣ではあいつに勝てないよ・・・
作戦を立てましょう!
限られた時間の中で最大限に効果を発揮する作戦です。
あいつはきっと体一つでゴリゴリ来るでしょう。圧倒的な筋肉で、最初は力任せに蹴散らしてくるはずです。
対して僕には精神的にも物質的にも準備する時間がわずかばかりですが有ります。
まともにやり合ったら勝てない?
まともにやり合わなければいいのです。
さあ、生き残る為の準備を始めましょう!
手は震えてますけど・・・
シンタローがじわりじわりと成長していきます。
人間弱いままではありません。
最近ボケが入れられません。
サバイバルとボケの間には深くて暗い溝があるような気がします・・・