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今僕は決死の覚悟で崖を登っています。
5mくらいの梯子を作って最初はそれを登りましたけど、それ以上の長さの梯子は強度的に不安でしたので、泣く泣くこのサイズです。
梯子から上は恐怖のフリークライミングです。
命がけのボルダリングを何故しているかと言いますと、当然崖の上に拠点を設ける為なんですが、実は少し切羽詰まっています。
先日の夜半の事です。
シンタローは革の服を装備した。防御力が2になった!
と、遊んでいた時、森を吹き抜ける僅かな風がその音を運んで来ました。
ザワザワと下草を踏む獣の足音、グルルゥ、ガルルッという唸り声、ただ事ではありません。
ドキドキする心臓をなだめるように僕は深呼吸すると、落ち着いて装備を身につけます。
今さっき完成したばかりの巨大トンボの服は、縫い目を革紐で結んでいる為、ネイティブアメリカンの服のようにも見えますが、肩、背中、肘、上下腕、胸、腰、にスライム樹脂の多層装甲が仕込んで有ります。
レースアップブーツもモカシン風の見た目に作ってあります。モカシン風ですが、スライム樹脂でしっかりソールと踵も作り、爪先と靴底にはモンキーボアの牙で作ったスパイクが生えています。当然ニーパッド付のレガースも作ってありますよ。
手には勿論トンボグローブです。余った革で装甲入りサファリハットと装備ベルトも作成してあります。
さっきは防御力2って言いましたけど、実は10ぐらいはあるんじゃないかと自負してます。
左の腰にはゴブの剣、右の腰にはゴブ斧、右ブーツにはゴブナイフ、背中にトンボの弓と矢筒です。投げ槍も十数本用意してありますし、先端を尖らせてスライム樹脂でコーティングした矢もそれなりに用意が有ります。
必殺の秘密兵器も準備しています。
実はこれのおかげでこれだけ冷静でいられるのです。
使えば大変な事になるので出来れば使いたくありません。実験した時は効果が絶大過ぎて無茶苦茶慌てました。
現れたのは灰色の毛皮を持つ狼のような獣でした。十数匹居ます。
痩せてギラギラとした目つきで樹の下をうろつき、僕に向かって激しく吠えて威嚇してきます。
これはゴブさんでは敵にならないでしょうね。たった一匹でゴブさんの群れを蹂躙してのけるくらいの戦闘力を感じます。
樹の幹に前足をかけて吠える狼の口に木槍を捻じ込み黙らせます。
鋭く削った槍の先はスライム樹脂でコーティングしてあります。他のすべての投げ槍も同じ加工を施してあります。
その槍もポンポン投げて応戦します。弓も射ます。
一方的な戦いでした。
これは僕が圧倒的に有利な地形だったからで、地上で戦っていたら僕なんてロクな抵抗も出来ずにお陀仏だったでしょう。
今回は飛び道具が使えない狼だったから良かったですが、これがゴブさんだったら樹の上でも安全ではありません。
本格的な拠点設営を急がねばなりません。