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今度はお尻の辺りを跳ね上げられ、体が宙を浮きます。
車に撥ねられたらこんな風になるのかな・・・
と、場違いな事が頭に浮かんで・・・
腹打ちで叩きつけられた地面が腐葉土で無かったら、僕は確実に動けなくなり、本当に死んでいたかもしれません。格闘技どころかスポーツもまともにやった事の無い僕は受け身なんて取れるはずもなく、只々無様に地面を転がりました。
さらに突き飛ばされます。ボロ雑巾のように・・・
今自分がどうゆう姿勢なのかも分かりません。あまりの事に全身が麻痺して指一本動かせない状態です。
もう一度突き飛ばされました。
今度は猛烈な痛みを伴います。顔は半分腐葉土に埋もれ、半開きの口に大量の落ち葉と泥が入ってきました。
鼻にも泥が入り、鼻水とよだれで僕の顔はメチャメチャのはずです。
いつもなら人生終わったとか思うんですが、そんな暇も有りません。余裕もありません。
負けそうです。この何かに、現実に、自分に・・・
最後に自分が何に負けたのか見とこう、場違いな発想に自分でも驚きました。
その何かは、白い毛むくじゃらの獣です。
形は全体的に猪でマントヒヒで熊です。後ろ足は猪のような偶蹄目、体も猪、前腕と肩から上はマントヒヒで。大きさは熊くらい。
頭だけ綺麗に禿げていて、鉄の板が頭に貼りついているみたいな形状をしてます。この頭で跳ね飛ばされたのでしょう。
妙に人間臭い顔をしています。
そいつがニヤリと笑ったのが見えました・・・
ありがとう、僕の事を笑ってくれて。
心が冷えます・・・でも・・・
その、人を見下した笑いが僕の力になります・・・
僕は確かに鈍くさくて頭も良くなくて容姿も人並みで仕事もあんまり出来なくてお人好しでボッチで世渡りも下手で要領が悪くて彼女も居なくて存在感が薄いけど・・・
それでもお前なんかにバカにされる人生は歩んでない!
右手でゴブナイフを逆手に引き抜きます。迫ってくるそいつの顔がやけにスローモーで、あっさりとそいつの左目にナイフが突き刺さりました。
後で考えたらスポーツ選手によくあるゾーン現象でしょうか、事象がゆっくりと過ぎていったような気がします。
それからの記憶が曖昧です。
気が付いたら喉に深くゴブの剣が刺さったそいつがこと切れていて、泥に塗れて樹によりかかる僕が居ました。
現実感が希薄な時間が過ぎ、いつの間にか現れたスライムパイセンがそいつを綺麗に平らげて行く様を見ていたような気がします。
ダルい体を無理矢理立たせて装備を拾い集め、まだ日は高いですがキャンプに戻る事にします・・・
もう無理・・・・・・・・・・
今日は!