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放った矢の鏃は根元からポッキリ折れてました。シャフトの部分は無傷なので再利用ですが、やはりスライム樹脂の鏃は強度が足らないですね・・・
数を作って物量で勝負という考え方もありますが、そればっかり作ってる時間もありません。
やることは山ほどありますからね。
洗濯や炊事もそうですが、一番大事なロープ作り---どれだけ作っても余ると言う事が有りません---、岩塩を削って石でゴリゴリ粉末にする作業も有りますし、その他素材が手に入ればその加工も有ります。
目下マイブームの工作は、ウロコの樹と名付けた樹木の皮の加工です。
ウロコとわざわざ呼ぶくらいですから、この樹の皮はウロコ状になってます。縦20cm、横30cmくらいのほぼ同サイズの皮が、簡単とはいかないまでも、石で作った楔を打ち込んで取れます。
これの形を整えるという作業ですが、これがまた莫大な量を作ります。スライム樹脂で接着すれば将来良質な屋根瓦になってくれるでしょう。最初は檜皮葺にするつもりでしたが、よくもこんなにおあつらえの物が有ったもんですよ。
トンボグローブもそうでしたけど、今苦労すると後が格段に楽ですからね、作れるときに作っときます。
さて、一旦キャンプに帰ってお昼ご飯を食べましょう。
サバイバルの基本は絶対に無理をしない事、体力の消耗は必ず6分か7分で止めて置く事です。いつ何時非常事態が発生するかも知れません。
今みたいに・・・
一瞬何が起こったのか分かりませんでした。
視界が目まぐるしく回転し、息が詰まって周りが暗くなります。もしかしたら失神しかけたのかも知れません。
腰の辺りに何かが激しくぶつかって来たと解ったのは、その何かが僕の左腕に齧り付いて恐ろしい勢いで首を振っているのを知覚した時でした。
幸いな事に、僕の左手のトンボグローブは、弓の弦が当たった時のアームガードを兼ねているのでスライム樹脂の厚い板で補強してあります。
なんて悠長な事を考えていられません!半狂乱になって何かの顔を殴りつけます。ゴブナイフを抜くとか、ゴブの剣を振りかざすなんて思いも付きません!
何回目かの殴打が何かの眼に当たったらしく、漸くそれは僕から距離を取りました。
呼吸が激しく不規則になり、よだれが気管に入って激しく咽ます。視界は涙で曇って頭はパニック、足には力が入らず腰は抜けそうです。
とにかく逃げなければ、そう思い僕は最悪の行動に出てしまいました。
そう、後ろを向いて逃げだそうとしたのです。