~腐った世界を行く病んだ救世の英雄たち~
最後のモンスター、豚人間とも言える気持ちの悪い妖怪が膝から崩れ落ちた。
私の魔法とやらも最近やっと板について来たらしい・・・
そう言えばこのモンスター、オークと言ったか、西遊記に出てくる猪八戒そのままだな。あの物語でも粗暴で好色なトラブルメイカーという表現をされていた覚えが有る。
いかんな、まだこの古びた廃城の探索は続いている。気を散らしていてはまた皆に迷惑をかけてしまうだろう。
しかし、この私が事もあろうに賢者の役回りとは笑わせる。
我々の前に顕現された女神様は、一人一人に戦う力を授け、近隣の都市迄転送して下さった。
カップルは守護騎士に癒しの聖女。学生諸君はそれぞれ侍、忍者、陰陽師となり。お嬢さん方は狙撃狩人、魔獣召喚士、精霊符術士、最後の一人は魔法剣士・・・
この世界に連れて来られてから最早一月余りか、我々は都市で情報を集め、協力して事に臨む事になったのだが、魔法剣士とはまだ一度も口を利いて貰えず、目も合わせて貰えていない。
母さんの忌の際に間に合わなかったのは確かに私が仕事に没頭していたせいだ。だが、あの頃はやっと世間に私の・・・・いや、よそう、何を言っても所詮は負け犬の遠吠え。
捻じれてしまった家族の関係を少しでも改善しようと、娘の友人の力を借りて温泉旅行を突き止めた。
迷惑だろうと付いて行き、対話から始めようと思ったのだ。
幼い頃はよく私のカメラバッグを小さな体で玄関まで運んでくれたものだった。それを思い出して、少しでも気を引こうと、誰に問わず荷物を運べと最初の頃は怒鳴っていたが・・・・愚かな事だ。
その私が賢者だと?
賢者とはかくも愚かな者の事をいうのか?女神よ。
ふと、私を気遣い、そして去って行った青年を思い出す。
残酷な現実を物ともしない足取りで走り去る、あの青年を・・・
取り返しのつかない時間を失い、苦い思い出と悔恨に責め苛まれる私を残して・・・