25
しばらく僕は樹の根元で震えていました。
衝撃の光景でした。目の前で首ちょんぱされるちっちゃいおっさん・・・
凄絶な食物連鎖の戦いは場所を移したようで、今はゴブさんの雄たけびも巨大トンボの羽音も聞こえません。
僕は嵩張る荷物をその場に残し、恐る恐る樹の陰から身を乗り出しました。
怖い物見たさと言いましょうか、とにかく巨大トンボの死骸を確認しましょう。
異世界三日目、毎日神経がすり減ります。こんな事ならゴブ死体耐性一を取得しておけば良かったと思います。そんなの無いけど。
幸いな事にゴブさんの死体は二つとも巨大トンボが咥えて運び去ったので、ここにあるのは巨大トンボの死骸一つとゴブ生首のみです。
どちらかと言うと、胴体有りの死体よりもパンチ力が有ります。
ああ、何と生々しいのでしょう。精神衛生上細かい描写は差し控えさせて頂きますが、今日絶対夢に出ます。間違いありません。
巨大トンボの死骸もこれまた強烈です。ギラギラと光る鋭い牙状の口、そのまんまミラーボールになりそうな二つの複眼、びっしりと生えた産毛に透明な翅、体に纏わりつく緑のドロドロ・・・
緑のドロドロ?
凄いです!有名なアレです!初めて見ました!当たり前ですけど。
緑のドロドロが巨大トンボの死骸に纏わりついて死骸を溶かして食べています。
シュウシュウと音を立てて死骸が溶かされていきます。
好き嫌いが有るのか、透明な翅は根元だけ取り込んでぺッと吐き出され、尻尾の部分は中に入りこんで内臓だけ食べているみたいです。
ゴブさんの斧が食い込んだ複眼は食べているのに不思議です。あ、ゴブ斧もペッと吐き出されました。美味しくなかったみたいです。
ふと気になってゴブ生首を振り返りますと。
「いぃぃぃぃいっぃぃ!」
思わず変な声が出ました。そっちの方もぬかりなくゴブ生首を取り込んだ別の緑のアレが居りまして、もう首がすんごい事になっています。今日どころか一生夢に出そうです。
もう耐えられそうにありません。震える足で後退ると、
ブルルン、プチュ
と、おぞましい感触が・・・
「ひぃぃぃぃぃっ!」
これは泣きますよ!何か柔らかい物を踏んだ右足から伝わってくるこの感触。
ゾワリと電気が走るような悪寒。
恐る恐る足元を見ますと、しっかり踏んでました。緑色のナニ・・・
しかも核の部分をジャストミート!
ヌチャ~っと表面張力を失い広がって行く緑のナニ!
光速で足を引き上げプルプル震わします。
多分僕の髪の毛は全部逆立っていると思います。それぐらい気持ち悪い感触です!
緑のナニ・・・スライムです!