~女神による腐った世界の為の陳腐なチュートリアル②~
アッという間の出来事だった。また自分には何も出来なかった。
走り去って行った男性は自分たちより少し年上なだけの、人の好さそうな一般人だと思う。それを、自分たちは、自分は見殺しにした・・・
引っ込み思案のコミュ障で、他人に気を配る事も出来ず、引き籠ってゲームばかりしていた。
今回の旅行もホントは行きたくなかった。前のオフ会で田中君が酔った勢いでポロっと言った温泉旅行。仲間外れになるのが怖くて行こう行こうってなったけど、多分言い出しっぺの田中君だってホントは口に出しただけだと思う。でもそれは言わない。言えば彼が傷つく。
周りが自分達を見る目が怖いからあまり外には出たくない。
たまたまハマってたMMORPGで自分たちは知り合った。似た者同士、負け犬同士、気が合ったのだと思う。仲間内で流行っているのはいかにゲームっぽく生きるか。現実から目を背ける為の、現実内でのロールプレイング・・・
転機だ。そう思った。ホントに異世界転移するなんて!
でも現実のゴブリンはWEB小説のような雑魚じゃなかったんだ。考えてみれば当たり前だよね。中型犬にだって人間は簡単に負ける。自分に出来ることは尻尾を股に挟んでバスに逃げ込み、生贄を差し出す事だけ。
「あそこを見るでござる!いよいよ始まったでござるね!チュートリアルイベ!」
もう癖になったしゃべり方で木島君が指した方を見ると、ホントに女神様が大木の根元に降臨していた。
耳が熱くなる。女神様に今のだらしない、卑怯な有様を見られた?それでも女神様はそんな自分たちに世界を救えって言うの?まだそんな依頼があるかどうかも解らないけど、自分たちに出来る事なんて何があると言うんだろう。それより女神様、さっきの彼を助けて下さい!自分たちを助ける為に彼が囮になってくれているんです!
コミュ障の自分がそんな大それた事言える訳も無く・・・
不思議なことに、いつの間にか皆バスの外に出て、女神様の周りに集まっていた。
女神様は嘆く。
この世界の人々はいつの間にか他人への信頼の心、慈しむ心、労わる心を失くしてしまい、国は崩壊し、今は村単位で反目し合っている。このままではいずれ魔物との戦いで、協力し合う事が出来ない人々は滅びてしまうだろう。
女神としての力も信仰が薄れ、思うように発揮できない。座して滅びを迎えるのも時の流れと諦めれば良いが、最後にもう一度だけ彼らを救う挑戦を試みたい。それにはどうしても”勇気の輝き”が必要だ。それを探してきてほしい。この世界の住人では無い貴方たちにこれを頼むのは筋が違うかも知れない。でも貴方たちも多かれ少なかれ現状を変えたいと思っているはず。これを機に頑張ってみてはどうだろうか。
勝手な願いとは思う、嫌ならすぐに元に帰す。もし残ってくれるなら弱った力なりに能力を与える。
人選間違えてませんか?女神様・・・